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金沢大学附属小学校 6年2組能登の食文化を生かした新たな食を生み出そう

#小学校 #6年生

能登の食文化を生かした新たな食を生み出そう

HESOコミュニティモデル

プロジェクトのはじまり

コラボレーターと担任教諭が 協働で取り組む

令和4年度の6年生の総合学習における共通のテーマは「新しい価値を創造しよう」でした。1学期には、6年生の3クラスが合同で金色の紙ごみを再利用した「黄金の茶室」を制作。完成した茶室はその年の8月6日から9月3日まで金沢21世紀美術館と金沢駅百番街に展示され、大きな注目を集めました。

その活動を通じて、子どもたちは価値がないとされがちなゴミから新たな価値を生み出せることを知りました。この成功体験を経て、活動は次のステップへと進み、2学期の10月からはクラス単位でそれぞれのテーマに取り組むことに。2組は能登をフィールドとした新たな食の創造をテーマとしました。

このテーマに関しては、別のプロジェクトのコラボレーターからの紹介で、コラボレーターとなる人物が決まりました。石川県の特産品を生かした商品開発を手掛ける株式会社Ante(以下、Ante)の代表を務める中巳出さんです。中巳出さんを紹介された担任の室野教諭はあらかじめ打ち合わせを行い、今回のプロジェクトを通じて、子どもたちに伝えたいこと、学んでほしいことなど、プロジェクトの核となる部分を共有し、活動を開始しました。

児童に伝えたテーマは「能登の食文化を生かした新たな食の創造」でしたが、その目的はプロセスのなかで能登の課題を自ら見出し、解決に向けて自主的に行動することでした。

中巳出さんは「本音を申しますと能登にぎりを考えるというのは建前で、当初はそれが商品化につながるとは予想していませんでした。プロジェクトに取り組むことで子どもたちが能登のすばらしさや守らなくてはいけないものがあることを知り、能登について考える機会になればそれだけで充分だと思っていたのです」とプロジェクト参加前の心境を振り返ります。

6年生が全クラス合同で仕上げた黄金の茶室づくり。メディアにも取り上げられ、注目を集めました
コラボレーターとなった中巳出さん

子どもたちの活動と想い

演出によって子どもたちの やる気スイッチを押す

揚げ浜式製塩法は能登半島の先端に位置する珠洲市を中心に、500年以上受け継がれてきた塩づくりです。「塩田」と呼ばれる砂浜に海から汲み上げた海水をまき、太陽と風の力で蒸発させ、さらに塩が付着した砂を集めて海水を注ぎ、不純物を取り除きながら長時間煮詰めて塩の結晶をつくります。そうして生まれた塩は、粒が大きく海の恵みをふくんだまろやかな味わいです。しかし、その製造工程は過酷で多くの労力を要することから衰退の一途をたどり、担い手も失われていきました。今は全国で唯一能登でのみ行われているのが現状です。

そんな現状にあって、伝統を守ることを決意し、揚げ浜式塩田の復活に挑戦したのがコラボレーターとなったAnteの中巳出さんです。Anteが能登の塩の魅力を伝えるために開発したのが地サイダーブームの火付け役となった「しおサイダー」でした。

子どもたちへのアプローチは、しおサイダーを児童に配布し、実際に味わってもらうことから始まりました。配付時の様子を担任の室野教諭は「塩とサイダーというしょっぱいものと甘いものの組み合わせに驚いていました。自分たちがそれまで調べてきた能登の知識とサイダーがなかなか結びつかなかったようです」と振り返ります。

「なぜ、しおサイダーができたのか」そんな疑問から学習はスタートしました。そしていよいよ中巳出さんの登場です。子どもたちを前に中巳出さんは揚げ浜式塩田の歴史や能登の現状、伝統を守るために大金を投資して塩田を復活させた理由を熱く語りました。子どもたちはそのストーリーに引き込まれつつも、この時点では「自分だったら成功するかどうかもわからないことにそんな大金を使わないだろう」と思っていたようです。

その日の授業が終わるころ中巳出さんが切り出します。「来年の春、金沢市尾張町に能登の食材を使った食事を提供する店をオープンさせる予定ですが、そこで提供するおにぎりのメニューに困っています。皆さん一緒に考えてくれませんか」。その呼びかけに対し、多くの児童から「やってみたい!」という声が上がりました。

この流れはコラボレーターと担任教諭の間であらかじめ予想したもので、室野教諭は「それまで塩づくりへの情熱を熱く語っていた中巳出さんからの助けてほしいという言葉に、手伝いたい気持ちが芽生えたようです。自発的に取り組んでもらいたいと思っていたので、能登にぎりの考案へといい流れでシフトチェンジできました」と言います。

汲み上げた海水をまく揚げ浜式製塩法の塩田(石川県珠洲市)
能登の塩のことを知ってほしいと児童に配布された「しおサイダー」

課題と解決への道

コラボレーターの気持ちに 寄り添う子どもたち

おにぎりを考案するにあたり、まずはより深く「能登の魅力は何か」を調べることにしました。おにぎりづくりを念頭においての調べ学習はグループ単位で行い、他のグループの発表を聞くことで全員が幅広い知識を得ることができました。同時期に能登の塩と市販の塩を比較してその違いも学びました。

12月にはいよいよおにぎりのアイデアを考えることに。ここでポイントとなる出来事がありました。室野教諭は「しっかり能登の魅力について調べたにもかかわらず、おにぎりの考案となると子どもたちの頭の中は具材一色になり、高級な食材を使ったものが多くあげられました」。そこで軌道修正できたのは次の中巳出さんのアドバイスでした。「もともとおにぎりは家庭でつくられてきた携帯食で、持ち運びができ、気軽に食べられるものです。高級な食材を使えばおいしくても販売価格は高くなります。1万円を出しておにぎりを買う人はいますか。また店頭で販売する場合はいつでも食材を確保できることも重要です。商品を開発する時にはそのようなことも考えなければいけません」。

室野教諭も「それまで能登地方に昔から伝わるもの、家庭でもつくってみたいと思えるものというキーワードが出ていたにも関わらず、アイデアには高級食材が使われていました。ただ、最初からうまくいかなかったのはよいことで、つまずきが考えをブラッシュアップしていくきっかけになりました」と語ります。そこからは能登らしさに加えてお店で販売することも考慮したアイデアへと変化していきます。

来校を重ねるうち、休み時間にも積極的に中巳出さんに質問する児童の姿が見られるように

プロジェクトを通して得られた成果

子どもたちのアイデアを生かした 商品が誕生

中巳出さんのアドバイスを受け、再考した子どもたちのアイデアは多岐にわたります。スイーツ感覚のおにぎりや能登の特産品「ころ柿」とチーズを使ったもの、魚醤「いしる」を使い焼きおにぎりに仕上げたものなど、コストや栄養面、食材の確保にも配慮し、さらに能登の魅力も伝わるものばかりです。
その内容について室田教諭はこう語ります。「何度もあきらめずにより良いものを追求する子どもたちの姿がありました。能登を愛する中巳出さんの気持ちに寄り添ったものや、しおサイダーのように意外性のあるものを組み合わせたおにぎりの案など、ほんとうにさまざまでした」。続けて、「私にとってもおにぎりや能登のことは専門外なので子どもたちの疑問にその場でどう答えればいいのか悩む場面もありました。また子どもたちは実際に自分が体験することで学んでいくことが多いのに、全員が能登塩を使ったおにぎりを家庭で食べたわけではありません」。そういった体験値の不足を補ったのは、タブレットを使ったクラスのネットワークでした。児童が「家で能登塩を使ってこんなおにぎりをつくってもらいました」と写真を添付して担任に報告すると、それを担任からクラス全員に配信。オンラインの活用によって生徒間の情報量の格差を減らし、さらに別の生徒が「こうしたらもっといいのでは」と意見を出すことで改善が図られていきました。

令和5年の2月には再び中巳出さんを学校に招き、能登にぎりのアイデアをプレゼンテーションすることに。その内容に中巳出さんは「季節感やコストまで考えてあり目からうろこでした。ぜひ新店舗のメニューの参考にさせていただきます」と声を弾ませ、発表会は幕を閉じました。
そして4月15日、金沢市の中心に近い尾張町にAnteが運営する食事処「山里の咲(やまざとのしょう)」がオープン。その店頭には児童たちのアイデアにヒントを得た能登にぎりが並んでいます。中巳出さんは「なんとか子どもたちが考えてくれたことを商品という形にしたいと思いました。たくさんのアイデアをベースにスタッフと試行錯誤を重ね、おいしさはもちろん食材の確保やコスト面も計画を立て、いくつかのアイデアを商品化しました。金沢限定で栽培されているさつまいもの五郎島金時を使った商品や能登のぶりと柚子を組み合わせた商品などがそうです。子どもたちが私の想いに応えてくれたから、私も子どもたちに応えたいと思いました。子どもたちのアイデアに大人の知恵や経験を加えて誕生した他にはない商品です」と言い、「過疎化が進み耕作放棄が増えつつある能登の農業や漁獲高の推移、消えつつある伝統まで、深く知ってもらえたと思います」と続けます。

この1年を振り返って室野教諭は「できる限りこちらから“こうしましょう”と指示するのではなく、児童の自主性を大切にしました。そうすることで児童の熱量が上がり、意欲が掻き立てられることを実感でき、私自身も勉強になりました。今回の活動ではコラボレーターに自分たちの考えを伝えるため、プレゼンテーション力も育まれたと思います。そういった総合で培った力を生かして、国語の授業でプレゼンテーションを実践しました。教科書にあるから学ぶのではなく、教科の枠を超えて総合的な力をつけることができたと思います」。

コラボレーターの中巳出さんに能登にぎりのアイディアを発表しました
プレゼン後に中巳出さんを囲んで記念撮影
子どもたちのアイデアを生かした能登にぎり。山里の咲の店内で食べられるほか、テイクアウトもできます

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