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複式学級「金沢の伝統工芸 金沢漆器の魅力に迫る」

#小学校 #4年生

複式学級「金沢の伝統工芸 金沢漆器の魅力に迫る」

プロジェクトのはじまり

金沢漆器について「もっと知りたい」 興味・関心を高めることから

令和5年度における4年生の総合学習の共通テーマは「伝統工芸」。石川県には国指定伝統的工芸品が10品目(輪島塗、山中漆器、加賀友禅、九谷焼、金沢仏壇、金沢箔、七尾仏壇、金沢漆器、牛首紬、加賀繍)あります。その中で、複式学級では豪華な蒔絵が特徴的な金沢漆器をテーマに取り組むことになりました。

「1学期は、子どもたちが金沢漆器について興味・関心を高め、題材への愛着を持たせるために見学、体験活動を中心に進めました」と複式学級担任の岡本光司教諭。
授業ではまず、子どもたちが金沢漆器と出合うところからスタート。金沢漆器とはどのようなものなのか、お重箱など実物の漆器を教室で鑑賞しました。華やかな蒔絵が施された漆器を目にした子どもたちからは、「金きらですごい」「ものすごく(価格が)高そう」など、見た目のインパンクトによる感想が多く出ていました。さらに、金沢漆器について「もっと見たい」「もっと知りたい」という声が続出。そこで金沢市広坂の老舗漆器店・株式会社能作がコラボレーターとして参画、同社の岡社長の協力のもと、さらに学習を進めていくことになりました。

5月、児童たちは金沢漆器をもっと見たいと能作の店舗へ。輪島塗や山中漆器などと見比べたり、さまざまな製品を見学したりしたほか、岡社長から、漆器とはどういうものか、どのような工程でできあがるのかなどの説明を受けました。

能作を見学したことで、子どもたちの「金沢漆器をもっと深く知りたい」という熱が高まります。
1学期の学習の最後には、親子活動として、加賀蒔絵の絵付け体験を行いました。これまで学習してきた蒔絵の「下絵」「漆付」「粉付」などの知識について理解をより深めました。子どもたちからは「楽しかった」いう感想とともに、細かい絵を描くことの難しさ、職人の技術の高さを感じたという声も。体験を通じて、新たな視点を得た子どもたち。金沢漆器に施される加賀蒔絵についての関心がさらに強まりました。


子どもたちの活動と思い

魅力と課題のどちらも学び 「多くの人に知って欲しい」

2学期に入り、子どもたちから要望があった職人さんの技術見学のため匠楽 大竹仏壇製作所へ。実際に職人さんが、さまざまな技法で蒔絵を仕上げていく様子を見て、金沢漆器の蒔絵技術の高さを感じ、地元に優れた工芸品があることを誇りに感じたといいます。

さらに、次は金沢漆器を使ってみよう、と、1学期の蒔絵体験で絵付した銘々皿を使った茶道体験を行いました。能作内の茶室での特別な空間での体験を通し、「空間や器が違うことで、上生菓子がいつもより美味しく感じた」「金沢漆器は、使うことも楽しみ方のひとつ」と、金沢漆器の魅力の新たな側面にも気づきました。
担任の岡本光司教諭は、見学や体験活動を重ねた上で、金沢漆器をとりまく課題について子どもたちに提示することに。

「子どもたちには、まず漆器を好きになって欲しい、という思いが強くありました。学習を通して、金沢漆器は知れば知るほど楽しい、見ても体験しても、使っても楽しい、と子どもたちが金沢漆器に夢中になった。課題解決型のプロジェクトですが、課題ありきではなく、まずはその題材を好きになってもらいたい。そのため、『好き』の醸成に時間をかけました。課題については、事前に岡社長と共通理解を図った上で提示しました」(岡本教諭)

子どもたちが、金沢漆器の魅力を十分知ったタイミングで、職人さんや岡社長から、生活様式の変化による漆器の需要減少や職人の後継者不足、金の価格高騰など、金沢漆器が抱える課題について語ってもらいました。

ただ、課題としてあげられる内容は子どもたちの生活体験とは離れており、実感がわかない様子も見られたことから、「より自分の生活と関係のある課題だと実感できるように」(岡本教諭)と、保護者、学校の教員、教育実習生といった身近な大人に金沢漆器についてのアンケートを行いました。すると、金沢漆器を「知っている」と答えた人は、わずか5%ほどという結果に。

金沢漆器の魅力と課題。そのどちらも学び、「こんなに素敵なものが、どうしてこんなに知られていないのか」「自分たちが感じている金沢漆器の魅力を、多くの人に伝えたい」――子どもたちの思いが高まります。
そこで、金沢漆器を「知る楽しさ」「使う楽しさ」「作る楽しさ」「見る楽しさ」に分類し、どのような楽しさを誰に伝えたいのか、それぞれが考えました。その上で、「蒔絵体験」「校内クイズラリー」「蒔絵の学習シール」「カルタ」「お菓子」など、グループ、または個人でプロジェクトを立ち上げ、岡社長の協力のもと、取り組んでいきました。

課題と解決への道

プロジェクトを通じ学びを得る ほかのグループからも刺激

2学期の時点では、学校内で「金沢漆器クイズラリー」を実施しました。全校児童を対象に、学校内に金沢漆器にまつわる問題を掲示し、クイズラリーを行うというもの。チームが作ったオリジナルステッカーも好評で、参加した児童からのアンケートには、「金沢漆器について興味がわいた」という記述が多かったといいます。

「『複式のオリジナルステッカーが欲しい』という声も多く聞きました。クイズラリーが成功したことで、サポートしたほかの子どもたちも刺激を受け『自分のプロジェクトもこんなふうに成功させたい』と、意欲を見せていました」(岡本教諭)

複式学級の児童18名がそれぞれのプロジェクトに取り組みましたが、中には実現できなかった企画もありました。

「例えば、文具をテーマにシャープペンを作りたい、という企画や、キャラクターとコラボしたい、という企画などは、既に製品化されていたり、企業にコンタクトを取ったものの実現がかなわないものもありました。うまくいかないことも含めて学びになったと思います」(岡本教諭) 

3学期に入り、プロジェクト最大のイベント「加賀蒔絵ワークショップ」を2月25日に金沢駅で開催。当初は1月に予定していましたが、能登半島地震により延期に。輪島塗の復興も意識した内容となりました。
イベントでは、蒔絵体験のほか、金沢漆器の製品や製作工程が分かる写真パネルの展示、さらに子どもたちが3Dプリンターを使って製作した漆器商品が入ったカプセルトイの設置も。事前予約の参加者と当日参加者で満員御礼となり、イベントは盛況に終わりました。 

「体験をしたお客さんもガチャガチャをしたお客さんも、加賀友禅のゲームコーナーにきたお客さんも、子どもたちの姿を見て、金沢漆器の魅力に触れて、笑顔になっていました。子どもたちにとっても、観光客にとっても、漆器業界にとっても、三方良しの素晴らしいイベントだったと思います」(岡本教諭) 

それぞれのプロジェクトを通じ、子どもたちからは「次は、商品開発をもっと早く進めて、新しいことにチャレンジしたい」「長くアイデアをあたためるとタイムオーバーになってしまうから、時間を有効に使いたい」といった声も出ていました。 


プロジェクトを通して得られた成果

自分たちで課題見つけ 主体的に取り組むように

1年間のプロジェクトを振り返り、コラボレーターとして参画した能作の岡社長は次のように話します。

「子どもたちからたくさん質問を受けましたし、常に意欲的で前向きだったのは印象に残っています。会社としてできること、できないことはありますが、いろいろなアイデアもたくさん出してくれた。プロジェクトをきっかけに、親御さんとお店に来てくれる子も増えました。まずは金沢漆器を子どもたちが深く知ってくれたことが良かった。そこからまた、魅力を伝えていってもらえたら嬉しいですね」

岡本教諭は「本気の大人に出会わせる、というのが、このプロジェクトの肝。今回も素晴らしいコラボレーターと一緒に取り組むことができて感謝しています」と振り返ります。

伝統工芸が抱える課題は、生活様式など時代背景による構造的な変化もあることから、子どもたちのプロジェクトによって即時に大きな成果を生み出すことは現実には難しい面があります。そうした中、まずは子どもたちが金沢漆器を好きになったことは大きい、と岡本教諭。

「昨年は、加賀友禅をテーマに学習しましたが、そのときも、子どもたちが加賀友禅をすごく好きになってくれた。今回も、子ども世代に金沢漆器の熱狂的なファンができたのは、関わる大人にとってすごく嬉しいことですね」

プロジェクトを進める中で、子どもたちの取り組む姿勢に変化が見られました。当初は受け身の姿勢だったのが、より主体的になったといいます。

「当初は『先生、何をすればいいですか』という感じだったのが、例えば、『岡さんのところに、写真を撮りに行きたいので、連絡してくれませんか』と要望を受けることもありました。教員の指示を待つのではなく、自分たちでこういう計画でやってみよう、と主体的に取り組むようになりました」(岡本教諭)

さらにこの年間のプロジェクトを通して子どもたちが得たものについて、岡本教諭は次のように語ります。

「社会課題解決型の学習は、教科書に載っているわけではありません。筋書きがない中、自分たちで課題を見つけて、それに対して自分なりの思いをもってトライする。その中で、成功することも、うまくいかないこともある。1年を通してそういう体験ができたのは、次につながると思います。今回、うまくいかなかった子も、ほかの子のプロジェクトを見て、『次はこうしたい!』と再チャレンジの意欲を見せていました。粘り強さ、挑戦心……そうした力がついたと感じます」

能登半島地震が起きたことにより、継続している個別のプロジェクトもいくつかあります。「経験から学んだことを生かし、この先もより良いものを創っていってほしい」と岡本教諭は期待を込めます。


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