プロジェクトのはじまり
新教科設置の背景にある創造性の育成
Society5.0に代表される新たな社会では、「既存の型にとらわれないアイデアを見つけ、新たな仕事を生み出すことができる資質・能力(新たな価値を創造する資質・能力)」が求められます。本校では令和2年度よりSTEAM教育に取り組んでおり、そのなかで「創造性の育成」を重視してきました。
その一環として、文部科学省の研究開発学校の申請を行い、令和3年度に指定を受けたことから、全学年への「創造デザイン科」の新設に至りました。創造デザイン科の目的は主に以下の2つです。
・「新たな価値を創造する資質・能力」の育成
・生徒の「特異な才能」を伸長させる
新教科の名称には、創造性を働かせて問題解決に取り組むプロセスを設計(デザイン)するという意味が込められています。
生徒の特異な才能
生徒たちが新たな社会で生きるためには、自らの特性や強みを自覚し、その力を最大限に伸長、発揮することが大切です。そこには、これまで学校教育が積極的に取り組んでこなかった「特異な才能を有する生徒」への対応も含まれています。
研究開発学校の指定に申請時から関わってきた服部教諭は、「今までは特異な才能があっても、なかなか学校教育でその才能を伸長させる機会はありませんでした。新教科では、創造性と特異な才能を、どうやって教育課程の中に一体化して取り入れるかという点に着目しており、特異な才能を持つ生徒へのアプローチは本校にとっても初めての試みとなりました」と申請時を振り返ります。
創造デザイン科における「特異な才能」に定義は設けておらず、広義に「何か光るものを持っている生徒」と位置付けられています。教諭は生徒個々の「ここをもっと伸ばしてあげたい」という部分=可能性を見出すという役割を担い、新たな価値を創造する資質・能力の育成と個別最適な学びを融合した学びの場を提供することとなります。
その手法は、大きく下記の2つに分けられます。
協働的プロジェクト型学習(STEAM教育)の実践
◯STEAM教育の特徴である「実社会の課題解決」と「協働的プロジェクト型学習」を踏襲しながらも、全ての教科等の資質・能力を活用し、教科等横断的にその問題解決にあたる形をとる。
◯協働的プロジェクト型学習は、チームを編成し、活動を通して問題解決を行う。
◯プロジェクトの解決方法は、机上の空論で終わらせるのではなく、ものづくりや作曲、デジタル作品など、現実世界にアウトプットできる表現活動を行い、それを評価者にプレゼンテーションすることで、プロジェクトに対する妥当性の検証まで行う。
デザイン思考をベースとしたカリキュラム
◯デザイン思考とは、イノベーションを生み出す卓越したデザイナーの思考法を指す。
◯デザイン思考は、「共感」「問題定義」「創造」「プロトタイプ」「テスト」のプロセスをたどる。
令和4年度は、生徒の発達段階を考慮し、以下のテーマで活動しました。
<第1学年>(授業時数:週1時間)
【目的】創造デザイン科の学習の基盤となる汎用的能力を育成する。
【テーマ】学校を創造する。
<第2学年> (授業時数:週2時間)
【目的】問題に出会った時、解決する道筋が分かる力を育成する。
【テーマ】学校と地域の関係を創造する。
<第3学年> (授業時数:週2時間)
【目的】自分の強みを生かして協働的にプロジェクトに関わることができる力を育成する。
【テーマ】創造性を働かせ地域に存在する問題に取り組む。
特異な才能を伸長させるシステム
活動内では、校務支援ソフトを活用し、学校全体で特異な才能を有する生徒を見出し、以下のアプローチを試みました。
①創造デザイン科で実践される協働的プロジェクト型学習を通して、特異な才能を育成する。
②学校内で生徒の特異な才能が育成できないと感じた場合、学校外の専門的な教育機関に生徒をつなげる。
新年度スタート後の最初のガイダンスでは、「将来どういうふうに生きたら幸せを感じ、社会で活躍できる人材になれるのか、そのためには創造性を活用しデザインすることが必要である」という趣旨をすべての生徒に説明し、グループ単位で授業はスタートしました。
学年が上がると、問題解決へのプロセスに対する経験値も高くなり、解決方法の提案もスムーズになってきます。さらに同時に他者の意見を尊重しながら学び合う姿勢も身につきます。
特異な才能を持つ生徒だけをピックアップするのではなく、インクルーシブ型の学習スタイルであることもこの科目の大きな特徴です。
活動が生徒にもたらしたもの
活動内容を紹介するにあたり具体例をあげると、あるグループは「屋上にベンチを置いてリラックスできるスペースにしたい」という課題に取り組みました。活動を進めるうちに生徒たちは、安全上のさまざまな制約があるという現実を知ります。そこであきらめるのではなく「リラックスしたいなら屋上にこだわらず、活動の本質に迫ることのできる別の場所に設置すればいいのではないか」という新たな解決策を模索します。次に学校と交渉し、実現に向けての活動へと進みます。このように年間を通じて多くのグループが、多様なテーマに対する活動を継続し、それらの一部は学校の㏋内でも紹介されています。また、大学や企業、行政機関、NPOなど、学外の協力機関との連携も着々と進められています。
令和4年度の活動を総括して服部教諭は「自分が興味を持ったことに積極的に取り組んだ経験が日常生活や学習面における新たな意欲につながりました。他者との折衝能力や問題を乗り越えながら活動している生徒たちの様子に頼もしさも感じました。また、教員自身にとっても専門外の新たなことにチャレンジする機会になり視野が広がりました。次年度には高校の教諭と連携した活動も予定しています。いずれは5校園すべてが連携し、目標を共有して活動できるようになればより効果が見込めるのでは」と語ります。
活動後には生徒へのアンケート調査が行われ、「創造性に対する自信」や「科学的に考えることに対する自信」の高まりが認められたように、活動の効果が実証されました。
創造デザイン科については、今後も実証データを検証し、より発展させていく方針です。