HESOコミュニティモデル
どんなプロジェクト?
学校の枠を超えた コラボレーションプロジェクト
金沢大学の附属5校園のなかで、附属高校の生徒(以下、附属高校生)と特別支援学校高等部の生徒(以下、支援学校生)が協力して新しい商品の開発と販売に取り組みました。もともと支援学校では、授業の一環としてクッキー作りと販売を行っており、そこに「総合的な探究の時間(旧総合的な学習の時間)」で「パッケージ制作・商品開発のプランニング」という探求課題への挑戦を希望した附属高校の女子生徒2名が加わるかたちでコラボプロジェクトは始まりました。
総合的な探求の時間は、文部科学省の学習指導要領の改訂に伴い令和4年から高校で実施されており、困難で予測不能な未来において求められる力=「生きる力」の育成を目的としています。附属高校では、週に1回総合的な探究の時間があり、全教員がゼミの形式で1~2年生の生徒10名前後を受け持ちます。今回紹介する女子生徒2名のゼミ担当は保健体育を担当する真喜志教諭でした。
総合的な探求の時間の目標は、変化の激しい社会に対応し、探究的な見方・考え方を働かせ、横断的・総合的な学習を行うことを通してよりよく課題を解決し、自己の生き方を考えていくための資質・能力を育成することです。そのため、個々の学習プロセスのみならず共同・協働的な学びも必要です。
スタート時、これまで学校の枠を超えた協働プロジェクトは前例がなかったこともあり、真喜志教諭と支援学校の吉岡教諭はどのように授業を行うかについて打ち合わせを行いました。真喜志教諭は「決まっていたのは、支援学校の授業でクッキーを作っているので、一緒に何かできればということでした」と言い、吉岡教諭も「最初は手探り状態でした。実際に顔を合わせ、目的や取り組み方法を整理したことで動き始めました。共同・協働学習を行うためには障がいの有無にかかわらず他者を理解することが重要であり、活動のなかで自分たちに何ができるのかを考えることで、自分に与えられた役割を全うできる人間に成長してほしいと思いました。本校の生徒にとっても、一生懸命取り組んできたクッキー作りを附属高校の生徒に伝える学習の場にしたいと思っていました」と当時を振り返ります。話し合いの結果、支援学校の生徒が翌年3月の販売会用に新商品を作り、附属高校の生徒がそのパッケージを企画・制作することが決まりました。
子どもたちの活動と想い
互いを理解することを中心に 活動を展開
1学期には前述の活動目標を設定し、実際に生徒が活動に取り組んだのは2学期の中ごろからでした。まずはお互いを理解するため、附属高校生が支援学校の体育の授業や文化祭に参加しました。最初の自己紹介時にはお互い緊張を隠せませんでしたが、同年代同士ということもあって打ち解けるまでに時間はかかりませんでした。
生徒同士の交流について吉岡教諭は、「普段あまり外部の人と接する機会がないこともあって、実は心配していましたが杞憂に終わりました。学習発表会で附属高校の生徒の質問に堂々と答える姿を見て感動しました」とその様子を語ります。
そういった外部との交流に刺激を受け、支援学校生が意欲的に取り組んだのがグリーンピースとオレンジの風味を生かし、サクサクとした歯ごたえが魅力のクッキーです。有名なパティシエを学校に招き、指導を受けたレシピをアレンジした新商品で、納得がいくまで試作品に取り組みました。クッキー作りと並行し、附属高校生はそれぞれパッケージ案をパソコンを使い考案。支援学校の美術教師である野尻教諭が加わり、附属高校の生徒にデザイン面のアドバイスを行いました。
パッケージの設計図が完成し、ここからはプロの力が必要ということで、支援学校の学び舎近くに社屋を構える株式会社竹山紙器(以下、竹山紙器)にパッケージを発注しました。竹山紙器は各種パッケージの製造販売を専門とし、先代社長の竹山氏(現会長)が支援学校で紙細工や折り紙の指導を行っている縁から、2種類のパッケージ各50個を依頼することに。竹山紙器の社長に直接想いを伝えるため、女子生徒2名と両校の教諭が設計図持参で会社を訪れました。
竹山社長は「当社でヒアリングを行い、サンプルを作って提示しました。その時点ではまだクッキーが完成していなかったので、後日調整を加える段取りで進めました。設計図を拝見し、さらにお話をお聞きして、相当考えて作られたものだということが分かりました。プランがしっかりしていたので製作工程はスムーズだったと思います」と言います。
課題と解決への道
納期を見据え、 時間の使い方を工夫できるように
3学期に入りクッキーおよび同時進行のパッケージがいよいよ完成。パッケージはクッキーを和紙で包み込み、和紙の裏側にメッセージを添えたものと、障がいがある人でも商品を包装しやすい箱型タイプのものの2種類です。和紙タイプは折り目をつけて包装しやすく、箱型のものは持ち運び時にクッキーが崩れないように耐久性も考慮して作られました。
竹山社長は「学校からプロジェクトの趣旨を伺い、未来を担う若者の学校教育に協力できればという気持ちでした。これまで接点がなかった学生と企業がつながり、一つのプロジェクトに取り組めたことは双方にとってプラスになったと思います」と語ります。クッキーを詰めるための補助具は附属高校生が工夫して作成し、両校の生徒が一緒に袋詰めを行いました。
販売日間近の3月、附属学校では卒業式の準備やテスト期間もあったことから「準備が間に合わないかもしれない」という問題が発生しました。真喜志教諭は、お客様がお金を支払う商品を販売する以上、責任を自覚し、課題を乗り越えた時の達成感を体験してほしいと考え、ぎりぎりまで見守ることにしました。「いざとなったら周囲の大人で助ける心づもりはしていましたが、その前に本人たちが友人や部活動の仲間に声をかけ、手伝ってもらっていました」。その様子に自分たちで解決していく生徒の成長を感じたと言います。
プロジェクトを通して得られた成果
継続することで 確かな力を身に付ける
3月16日、新商品発表を兼ねた販売会が金沢大学の宝町キャンパスにある医学図書館内カフェスペースで行われました。コラボレーション推進室が、各メディアに案内していたこともあり、当日は多くのマスコミも来場しました。
購入するお客様はリピーターが多く「安くておいしいのでいつも利用しています。新商品を食べるのが楽しみです」「パッケージがかわいいですね」といった声が聞かれました。デザインを担当した生徒の保護者も来ており、「家で楽しそうに活動のことを話していました。いろんな経験をさせていただき学校には感謝しています。本人のがんばりだけでなく、多くの人のお世話になったようですから、感謝の気持ちを忘れないでほしいです」と感想を教えてくれました。
会場では役割分担しながら商品を販売する両校の生徒の姿があり、定番商品とともに用意した100個は時間内に完売しました。支援学校の生徒はメディアのインタビューに対し、「たくさんのお客様がいらして、みんなで協力してクッキーをたくさん売ることができました。緊張してうまく答えられなかったり、飲みものの注文を忘れてしまうこともありましたが、全体的にうまくいったと思います。これからも一緒に活動したいです」と答えていました。
真喜志教諭は「自分の学校以外の生徒とふれ合ったことは教師としても有意義な経験でした。地元に優れた技術を有する企業があることを知ることもできました。スケジュール管理など、今回の反省点は次回に生かしたいと思います」、吉岡教諭は「生徒間に新たな交流が生まれたこと、学校単独で課題を解決するだけでなく、地域とのコラボレーションによって生徒が成長できることを実感しています。今回育んだ力はすぐに身に付くものでないので、継続していくことが大事だと思っています」と一連の活動を振り返りました。