プロジェクトのはじまり
金沢大学附属高校は、2014年度から5年間、スーパーグローバルハイスクールSGH(※①)に指定され、2019年度からは4年間、WWLコンソーシアム構築支援事業(※➁)拠点校に指定されるなど、「総合的な探究の時間」「授業研究」といった教育研究に力をいれる歴史を歩んできました。
※①スーパーグローバルハイスクール(SGH):文部科学省が2014年より、将来グローバルに活躍できる国際感覚に優れた人材の教育に力を入れている高等学校をSGHに認定し、補助金を支給し支援する制度
※➁WWL(ワールド・ワイド・ラーニング)コンソーシアム構築支援事業:新たな社会を牽引するイノベーティブなグローバル人材を育成することを目指し、SGH事業の取り組みの実績等、それまで先進的なカリキュラムの研究や開発を行ってきた学校と大学や企業等が連携して高度な学びの機会を提供するネットワーク(アドバンスト・ラーニング・ネットワーク)の構築を目指す取組み。
金大附属高校の教育方針、2030「志」で掲げる「育成を目指す資質・能力」は以下の通りです。
①激動が予想される2030年に向け、「地球サイズの教育」を実践し、学校創設以来の校訓 「自主自律」 の精神を身に付けたグローバルに活躍できる異才を育成する。
②自ら課題を見つけ、主体的に解決に挑む姿勢を持ち、広く社会に貢献できる人材を育成する。
その中で、特に身につけたい3つの力(本校のキーコンピテンシー) として、以下が掲げられています。
・情報を分析し、筋道を立てて考え、正しく判断する力
・言葉を大切にし、言葉を磨き、対等に会話する力
・行動を起こし、広く社会に発信する力
これらの実現のため、本校では「最後に広がる深い授業」「学びの個性化を尊重した授業」を目指しています。
WWL事業の指定期間が終了し、自走で取り組み始めて2年目――。
昨年度から、新しい探究活動の在り方として、総合的な探究の時間「探究ゼミ」をスタート。本校の目標に掲げる「異才の育成」を目指し、趣向を凝らしたさまざまな視点での探究に取り組んでいます。
探究活動の活性化
総合的な探究の時間「探究ゼミ」には、高校1年~3年が所属します。イメージは「学びの部活動」であり、4月から年間を通して「課題の設定」「情報の収集」「整理・分析」「まとめ・発表」の流れで行います。
<※図(文科省が出している探究のモデル図)>
現在、20個のゼミがあり、多様な研究テーマのもと、それぞれのゼミで質の高い探究活動が行われています。
「高校入学後、1年生の4月にゼミを決めます。高校の探究は『好きを深める』もの。それぞれ、生徒が好きなゼミを選んでいます。各ゼミの中でさらに7~8つの探究テーマが生まれています。マニアックな研究がどんどん出てほしいと思います」
(研究企画部主任・外山康平教諭)
▼現在のゼミの一覧(探究テーマの例)、または抜粋
1)文学ゼミ
ex:里山資本主義~地方主体の経済へ~
2)教育ゼミ
ex:教室構造と学習効果
3)歴史学ゼミ
ex:戦争体験を紡ぐ~戦争体験者聞き取り記録集~
4)現代アートゼミ
ex:現代アートの文脈に基づいた作品作成活動
5)社会学ゼミ
ex:里山資本主義~地方主体の経済へ~
6)実験体験数学ゼミ
ex:現代版ユークリッド原論を作ろう
7)「人と数学」ゼミ
ex:音楽と数学の美しさについて~音律の違いに着目して~
8)計算科学ゼミ
例えば、外山教諭の専門は数学で、担当は「人と数学」ゼミ。ここからもいくつものユニークな研究が生まれています。テーマの例をあげると、「音楽と数学の美しさについて~音律の違いに着目して~」「渋滞の具体的な解決策の提案」など――。
外山教諭は次のように話します。
「例えば、『音律』の研究は、音楽と数学に共通するものがあるのでは、という問いから、ピタゴラス音律と純音律などの違いを数学的に表現しようというもの。『渋滞』は、田上の交差点の渋滞を数学で考え、『渋滞学』という先行研究を調べたり、実地調査も行っています。ちなみに、『渋滞』のテーマは、朝の職員室での教員の愚痴から生まれています」
年間を通して活動し、2月の校内成果発表会では、全てのゼミが学びを共有し合います。さらに、3月には、金沢大学主催で、全国の連携校が学びを共有し合う探究成果発表会「ミライシコウ金沢」が行われ、代表チームがそこで発表します。
「自分の学校だけではなく、深い学びを活かしたコミュニティを作るのが目的です」
(外山教諭)
探究活動は年間のサイクルで行いますが、生徒たちは基本的に同じゼミに所属し、3年生の1学期は「まとめる」期間。「探究活動報告書・学びの履歴書・学びの設計書」を提出します。
「3年生の1学期まで、テーマは変わることもあると思いますが、基本的に同じゼミで研究します。探究的な活動を通して、学校全体が活性化しているのを感じます。教員の担当は、好きなことが基本。例えば、『現代アート』のゼミの教員は、地理が専門です。先生たちも好きなこと、やりたいことができる。生徒も先生も、生き生きしていますね」(外山教諭)
探究の成果、多くの連携先との探究
金大附属高校の探究活動の特徴として、多くの連携先があることもあげられます。
探究成果発表会「ミライシコウ金沢」では、金沢泉丘高校、金沢二水高校、七尾高校、小松高校、福井県立高志高校、富山県立高岡高校など北陸圏域の高校との「ヨコ」の連携、また金沢大学を中心とした附属学校園(幼・小・中・特別支援)と「タテ」の連携があり、交流も活発になってきているといいます。
特に金沢大学との連携は強くなっていると外山教諭は話します。
「大学の先生や学生さんと連携できるのは、附属学校園ならですね。医学部志望の生徒による『がん研体験プログラム』は、大学の医学部の協力があってこそですし、大学の最新のプログラムを経験できるのも大きい。『プロジェクトHESO』として、コラボレーション推進室ができてから、大学とのやりとりが増えて、密になっています。この動きは加速していくと思います」(外山教諭)
連携先は国内にとどまりません。連携校であるシンガポールNational Junior College(NJC)との協働研究は、4年目になります。
「コミュニケーションの手段はSlackやZOOM。2ヵ月に一度、ビデオ会議を行っています。現在、4つのチームが共同研究しています。例えば、昨年、あるチームは、オーバーツーリズムをテーマに、金沢の観光にまつわる問題点や、改善策を考えていました。海外の観光客のオーバーツーリズム的行動をもとに、日本的な行動をウチワで伝えよう、と。ウチワを作って配り、インタビューして、感想を聞いて……。プレゼンもすべて英語です」(外山教諭)
このチームは、海外からの観光客向けに「観光マナー啓発動画」を作成し、京都のタクシー会社に直接売り込みました。実際にタクシー内の30秒動画で流されているといいます。
「1年間、NJCとのビデオ会議をしていく中で、海外と日本の違いを知り、日本の当たり前を疑うところから、次に展開していく――グローバルに考える社会的な研究もあります」(外山教諭)
NJCとの協働研究であることから通称「N組」。メンターは金沢大学の学生が務めているといいます。
教育機関のほか、地域や地元企業など、外部との連携も増えています。高校では、平和町をフィールドに、数年前から学校と地域が協働で地域課題を解決していく「平和町プロジェクト」に取り組んでいます。この夏には、地元企業である北陸製菓のビスケットを売り出す方法を考える「HOKKAプロジェクト」(別記事参照)にも取り組みました。
外山教諭は言います。
「外のつながりには、恒常的なつながりと、単発で誰かにインタビューをする、といった2種類がありますが、単発で有識者に話を聞くにいく機会は多いと思います。そういった場合のアポ取りも、生徒たちが自分で取りに行ったりしています」
探究活動の成果、今後
2014年以降、SGH、WWLを通し、生徒が外に出て学ぶ文化が育っています。WWL課題研究成果発表会、探究甲子園など、外部で発表する機会による成果も出ているといいます。
さらに昨年からの「探究ゼミ」を通し、生徒たちが自ら学ぶ姿勢になってきていると外山教諭は言います。
「どのゼミでもいえるのは、生徒たちの学びが、高校の授業の枠を完全に超えています。僕が担当する『人と数学』ゼミを例にあげても、教科書や受験の概念ではなく、生徒たちが“生きた数学”を学んでいると感じます。やらされている感がないのも探究の良いところですね。生徒たちが、探究を通して、高校の数学をより使うために自発的に学ぼうとしてくれるのがすごく良いなと。ほかのゼミも同様のことがいえると思います。生徒たちが、より外に出て、自ら学ぶ姿勢になってきている。上級生になるほど、教員の手は必要なく、自走していますね」
金沢大学で開催された昨年の探究成果発表会『ミライシコウ金沢』では、連携校を中心に、全国から300人の高校生が集まりました。 「分科会が10個あって、そこに金大の先生がいる。発表のリアクションに有識者の意見が聞ける――大学というパイプを子どもたちの探究に繋げられるのは大きいと感じましたね。発表チーム以外の生徒たちもファシリテーターを務めたり、その空気に触れられるのは大きかったと思う。コンソーシアムを象徴する、教員としてもとても刺激的なイベントでした」(外山教諭)
プロジェクトHESOがスタートし、金沢大学との連携が強くなっている、と外山教諭は続けます。
「この1、2年で探究活動が加速しているのを感じます。特に金大との連携による成果は大きいですね。金沢大学はいろんな学術分野を持っていて、教職大学院もあり、さらに附属園として5校園がある。そのリソースは、今後の大きな可能性を感じます」
今後の探究的な活動の展開は――。
「ゼミという意味では、よりオタッキーな探究が増えてほしい。生徒たちが『好き』を追いかけて、本物の学びにつながるような探究が生まれていけばいいなと思います。大学ともより密接に連携し、本物の学びを深めていってほしいですね。日常の探究でも、もっと大学との関わりを増やしていけたらいいなと思います」
金大との連携を強化し、目標として掲げる「異才の育成」に向けて、高校の探究活動は続きます。