HESOコミュニティモデル
プロジェクトのはじまり
金沢市農作物ブランド協会が 活動を全面的にサポート
令和4年度、4年生の総合学習の題材は加賀野菜でした。加賀野菜とは「昭和20年以前から栽培され、現在も主として金沢で栽培されている野菜」のことで、現在、金沢市農産物ブランド協会によって15品目が加賀野菜として認定されています。新学期の活動は、最初のコラボレーターとなった金沢市農産物ブランド協会(以下、ブランド協会)の協力を得て加賀野菜について調べることから始まりました。ブランド協会から配付いただいた加賀野菜関連の資料をもとに調べ学習を行い、7月には保護者へのアンケート調査を行いました。
その結果、加賀野菜にはすぐに名前が出てくるメジャーな野菜がある一方で、あまり知られていない野菜があることも判明しました。そういったどちらかと言えばマイナーな野菜の一つが「加賀れんこん」でした。加賀れんこんは支那白花種という品種のれんこんで、300年以上の歴史があります。もっちりした食感が特長で、金沢近郊を一大産地として年間500トン以上が生産されているにもかかわらず、全国的に知られていないのはなぜか、どうすれば県外での加賀れんこんの人気を高めることができるのか、それが4年1組の総合的な学習の時間に取り組むテーマになりました。
子どもたちの活動と想い
子どもたちの活動とともに広がる コラボレーターの輪
加賀れんこんを選んだ背景には、ブランド協会の酒井さんとコラボレーション推進室、担任教諭との打ち合わせのなかで、加賀れんこんの栽培から出荷の時期がちょうど活動のスケジュールに一致しているという酒井さんのアドバイスがあったことも理由のひとつです。ブランド協会からの紹介で、生産者で構成されるJA金沢市加賀れんこん部会(以下、れんこん部会)もコラボレーターに加わり、児童に加賀れんこんの実物を配布。各家庭で実際に食べてみたことで子どもたちの加賀れんこんに対する親近感も増しました。
10月には加賀れんこんの産地に収穫の様子を見学に行きました。子どもたちは、水深60㎝ほどのどろどろの舗場から水圧を利用してれんこんを収穫する様子や1メートル以上あるれんこんの長さに歓声をあげてびっくり。見学の合間に生産者さんにこれまで調べてきた知識を土台に、積極的に質問する姿も見られました。
その後、次のステップとして活動内容は認知向上方法に関するフェーズへと進みます。子どもたちからは「旅行客に知ってもらえるように観光地で販売する」「スーパーに取り扱いを頼む」などいくつかの意見が出され、そのなかにインターネットによる販売という案も出てきました。
ここからコラボレーターとして大きな役割を果たすのがNTT 西日本北陸支店です。最初のきっかけは北陸支店のビジネス営業部地域活性化推進室(以下、NTT 西日本)が金沢市の依頼でコラボレーション推進室が入居する金沢未来のまち創造館でセミナーを開催した際に挨拶をしたことでした。北陸支店地域活性化推進室の沢本さんは「当部署では、地元石川県が抱える地域課題や地域活性化をICT で解決することを推進しています。コラボレーション推進室の担当者から、金沢大学附属5校園で小学生から高校生までが地域課題の解決に取り組んでいることを聞きました。そのなかで小学4年生の加賀野菜の課題解決について、弊社がICT を使って何かお手伝いできるのではないかと伝えました」と参加のきっかけを教えてくださいました。
沢本さんから提示されたのが、NTTのグループ会社であるNTTスマートコネクト株式会社が運営する食のライブコマース「foove(フーブ)」を用いた販促でした。沢本さんはその理由を「小学生自身がライブ配信することに対する話題性も生まれ、加賀れんこんを全国にアピールするにはぴったりだと考えました」と語ります。
課題と解決への道
小学生が全国に 加賀れんこんの魅力を発信
12月6日にライブコマースを行うこととし、NTTスマートコネクトの千々和さんが講師として配信に関する特別授業を2回行いました。その内容は、どのようにすれば画面の向こうの全国の視聴者に加賀れんこんの良さ、美味しさが伝わるのか、どのような話し方、表情が良いのかなどで、児童は熱心に練習を重ねました。
配信当日はブランド協会の職員やNTT西日本の沢本さん、れんこん部会部会長の北さん、配信用の機材を搬入いただいたNTTスマートコネクトの千々和さんなど、関係者が一堂に集まり配信を開始。児童の進行で加賀れんこんの魅力を伝えました。
この配信は関係者にも好評でしたが、担任の宮﨑教諭は別の思いもありました。「練習通りにでき、お褒めの言葉もいただきました。しかし、視聴者からの問いかけに担当の生徒が一人だけで答えるなど、コミュニケーション面でもっとできることがあったのではないかと思いました。この子たちならもっと配信の質を高められるはずだと感じたことから、もう一度やってみないかと提案したところ、子どもたちからも賛同を得られました」。そして3月に2度目のライブコマースを行うことが決まりました。
それからは「全員参加」「双方向コミュニケーション」を意識した練習が始まります。子どもたちは反省点を洗い出し、どうすれば相手に伝わるかを考え、休み時間にも自主的に練習する姿が見られるほど直前まで熱心に取り組みました。
プロジェクトを通して得られた成果
子どもたちとコラボレーターが協働し、 確実な成果を生む
迎えた2回目のライブコマース配信日。前回同様関係者が集まり、配信時間が近づくにつて緊張感が漂います。2 回目の配信では視聴者からの「いいね」に全員が元気に「ありがとうございます」と答え、わかりやすく工夫を凝らした内容に初回を超える反応がありました。 ブランド協会の酒井さんは「周知活動に最終的なゴールはありません。今回の活動は認知向上の通過点です。子どもたちが一生懸命に取り組み、確かな足跡を残してくれたことを嬉しく思います。成長したときに、あの時こういう挑戦をしたなと思い出してもらえることもこのプロジェクトの魅力だと思います」と語ります。
れんこん部会の部会長を務める北さんは「日頃からメンバーが県内の学校などに足を運び、認知向上を目的とした活動を行ってきました。我々生産者の立場からも子どもたちが今回のような活動をしてくれたことは励みになります」と答えてくださいました。
NTT西日本の沢本さんからは「れんこんの梱包、宛名書き、購入者へのお手紙、レシピ同梱も児童自身が行い心温まる対応は『foove』のイメージアップにもつながったと思います。これまでは生産者や企業、大学などが配信を行うのが一般的だったため、小学生による配信は社内でも注目が集まりました。この配信後に、全国各地で学生の配信者が現れるなど、私たちにとっても裾野が広がる結果になりました。活動内でアドバイスはしましたが、子どもたちとはお互いがパートナーという感覚で進められたことが新鮮でした。今回はライブコマース『foove』を活用しましたが、ICTでさまざまな課題解決ができると思います。今後も児童、生徒の皆さんにICTによる課題解決を提案したいと思っています」という感想をお聞きしました。
宮﨑教諭は「余談ですが、保護者から家庭でブランド協会さんや生産者さんにいただいたれんこんを使って料理したことをきっかけに、食べ物の好き嫌いが少なくなったという声も聞きました(笑)。私自身は活動を通じ、子どもたちが自ら考え、伝える力が向上していくのを目の当たりにできたことに感動し、非常に勉強になりました」と1年を振り返ります。