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金沢大学附属小学校 5年金沢独自のゆるスポーツを生み出そう

#小学校 #5年生

金沢独自のゆるスポーツを生み出そう

HESOコミュニティモデル

プロジェクトのはじまり

ゆるスポーツを通じて 社会の課題を見つけ、共生社会のあり方を考える

5年生の総合的な学習の時間では、多様な人々との共生社会のあり方をテーマとして、クラス単位で「金沢らしさを表現したゆるスポーツの考案・制作」に取り組みました。ゆるスポーツは障害の有無や年齢、性別、運動の得意不得意にかかわらず、誰もが楽しめる新スポーツです。2015 年に日本で一般社団法人世界ゆるスポーツ協会が設立され、これまで100 以上の新しいスポーツを開発・認定し、海外からも注目を集めています。協会では、ゆるスポーツを通じてさまざまな社会課題を解決することを目的としており、活動の基本として5LINES という5つの定義を定めています。

〔ゆるスポーツ5つの定義〕

1.老若男女健障、だれでも楽しめる。
2.勝ったら嬉しい。負けても楽しい。
3.プレイヤーも観客も笑える。
4.ビジュアルと名前が面白い。
5.社会課題からスタートしている。

令和4年度の新学期を迎え、コラボレーション推進室の担当者と5年生の担任教諭が総合的な学習の時間に取り組む課題について話し合いました。ゆるスポーツの目的が「社会の課題を発見し、解決方法を模索し、実行していく」という本学のプロジェクトの目標と一致していること、世界ゆるスポーツ協会が地域から日本のスポーツを発信する「ご当地ゆるスポーツ」を推奨していることなどを理由に、ゆるスポーツを題材とすることが決まりました。

コラボレーション推進室では金沢市に協働を打診し、金沢市文化スポーツ局スポーツ振興課(以下、スポーツ振興課)が令和4年度のコラボレーターとしての役割を担うことに。
打ち合わせの結果、「金沢らしさを表現したゆるスポーツの考案・制作」をテーマに、活動を進めることになりました。スポーツ推進課との協働が決まった背景には、推進室の開設前に金沢市などと協働で行った総合学習「コロナを言い訳にしない新しい国際交流のカタチとは/コロナ禍でも絆を深めることができる 新たな国際交流の在り方とは - 金沢大学附属学校園 プロジェクト HESO (kanazawa-u.ac.jp)」で生まれたつながりがありました。

金沢市文化スポーツ局スポーツ振興課の職員を招き、ゆるスポーツに関するレクチャーを受けました

子どもたちの活動と想い

ゆるスポーツの真の目的を知り、 金沢らしさを融合した新スポーツを考案

総合学習の最初のオリエンテーションは「ゆるスポーツを知っていますか?」という子どもたちへの質問から始まりました。その返答には「“ゆる”って名前だからゆっくりすること?」「なんだか楽しそう」など、名称から連想されるイメージが多かったようです。
1学期は新スポーツ開発の基礎固めとして、ゆるスポーツが生まれた背景を含め、ゆるスポーツが何かを明確に把握するための調べ学習から始まりました。同時に、児童自身にとってスポーツのいいところ、悪いところも話し合いました。

さらに、百聞は一見に如かずということで実際にゆるスポーツを体験してみようということになり、スポーツ振興課から特定非営利活動法人石川バリアフリーツアーセンター(以下、ツアーセンター)を紹介していただきました。ツアーセンターは全国および県内の障がいのある方や高齢者に対する観光と福祉関連の事業を行う機関です。コラボレーターとして今回の活動に参加以降は、主にゆるスポーツの実施面でアドバイスやサポートをしていただくことになりました。児童は校内でゆるスポーツを体験し、さらに金沢市主催のブラインドサッカー体験会にも参加するなど、体験を通してゆるスポーツについての理解を深めました。

2学期が始まり、ゆるスポーツへの理解が充分に深まった時点で、スポーツ振興課の篠田さんから「金沢らしいゆるスポーツのアイデアを出し、11月26日に開催予定の金沢市が主催するイベントに皆さんがつくったゆるスポーツのブースを出してみませんか」と提案がありました。篠田さんはその時のことを「近年、オリンピックパラリンピックを通じて整備・構築されるインフラや技術、サービスを大会終了後もレガシー(社会遺産)として活用するオリンピックレガシーが推奨されるようになっており、金沢市としてもレガシー創出に取り組む姿勢を打ち出していました。学校側からも前回のプロジェクトを継続するかたちで社会共生をテーマとした活動を続けたいという意向をお聞きしていたので、パラスポーツ周知を通して協働できると思いました。ブースの出店を呼びかけた時は、積極的だった児童もいれば、中途半端な気持ちでは難しいと慎重になる児童もいて、反応がさまざまだったのが印象に残っています」と振り返ります。

コラボレーターの協力のもと、校内でゆるスポーツを体験する児童たち

課題と解決への道

ゼロから1を創り出すことの 難しさを実感

ゆるスポーツの考案にあたり、学級ではグループワークによるプロジェクト型学習を取り入れ、「金沢らしさとは何だろう」を考えることから始めました。その時点では、兼六園、金沢駅の鼓門、水引、加賀野菜など、多くの場所やモノがあげられ、それらをジャンル別に大別し、先に述べたゆるスポーツの5つの定義と照らし合わせました。

そこからクラスでとりあげるべき「金沢らしさとは何か」をグループ単位でプレゼンを行い、投票によって決めました。結果、1組は五郎島金時と玉入れを融合した「五郎玉入れ」、2組は和菓子とホッケーを組み合わせた「かなざわがしHOKKE-」、3組はルビーロマンの収穫をスポーツ化した障害物走「ルビーロマン収穫競争」に決定しました。五郎島金時は県内限定で生産される加賀野菜のさつまいも、和菓子は江戸時代から茶道が盛んな金沢で発達した食文化、ルビーロマンは石川県が開発し、品種登録された大粒で甘いブドウです。 金沢独自のゆるスポーツをつくるという条件を満たすため、金沢らしさが感じられる「五郎島金時」「和菓子」「ルビーロマン」をモチーフとしましたが、決定までには深く調べたプロセスがありました。たとえば和菓子を選んだクラスでは、実際に和菓子店にインタビューに行き、コロナ禍で人が集う機会が激減して和菓子が売れなくなった現状、ひな祭りや子どもの日などのイベント時だけでなく、コンスタントに和菓子が売れるにはどうしたらいいかを悩んでいることなど、児童は業界全体が抱えている課題も知ることになりました。

担任教諭の一人は「今思うとテーマを絞る取捨選択のプロセスが一番大変でした。大会の日が決まっていたので、生徒が考えたアイデアをできる限り採用したいと思いつつ、ルール作りや道具制作のスケジュールも考慮して進める必要があったからです。発想に光るものがあってもプレゼンがうまくいかなかったために残念ながら見送ることになった案もありました」と述べます。さらに「常に議論しているグループもあれば沈黙が続くグループもあり、そこに教師がどう介入すればいいのか、または介入せずに見守ったほうがいいのか、そういった状況判断が難しいと場面もありました」と語ります。また別のクラスの担任教諭は、「できるだけ子どもたちが思ったこと、感じたことを大切に進めたいという気持ちとイベントまでの時間や材料確保のバランスをとるのが難しいと思いました。ターゲットが高齢者なのか、障がいを持っている方なのか、その人たちの立場になって一つに絞っていく工程にかなりの時間を割きました」と続けます。テーマが決まるまでに時間がかかったのはどのクラスも共通でしたが、そこで納得するまで話し合ったことで、決定後は全員が一つのテーマに意欲的に取り組む姿勢が見られました。

金沢らしさを表現するため、ゆるスポーツに融合できる観光資源を洗い出しました
児童考案の「ゆるスポーツ」のブースを出展することになったイベントのチラシ

プロジェクトを通して得られた成果

活動を通じて共生社会を学び、 未来をよりよく生きていく力の基礎を養う

決定後も「本当にこれでよかったのか」と疑問が生じるクラスもありましたが、その都度話し合い、さらにコラボレーターからのアドバイスを受け止めながら、ゆるスポーツづくりは進んでいきました。五郎島金時をトラックに積み込む「五郎玉入れ」ではちょうど家庭科でミシンを学習する時期と重なったため、その時間を利用して、裁断した布を縫って中に新聞紙を詰め込み、200個以上のさつまいもの玉を作りました。「かなざわがしHOKKE-」では多くの人が楽しめるようにホッケーに使うスティックの長さを何度も調整しました。「ルビーロマン収穫競争」では視覚に障害がある方が楽しめるように児童自身が挑戦し、改良を重ねました。教諭は「児童一人ひとりがいかに多様な相手を自分のこととして捉えられるかを念頭においてサポートしました。その経験は、いずれ社会に出て、社会の課題を見つけ、情報を整理し、解決策を実行していくことや、自分の考えがどうしたら相手に伝わるかを学ぶプロセスであると実感しました。そういった探究のサイクルを身に付けることができるのもこの活動の魅力だと思います」と言います。また、別の担任教諭は「材料の調達はコラボレーターのアドバイスに助けられた部分が大きかったですね。進捗については、推進室の担当者も含め3クラスの担任が互いに進捗状況を報告し、自分が受け持つクラスが課題にぶつかったときは相談しました。板書を見せ合うなど、横のつながりを生かして進めることができたのはとても勉強になりました」と振り返ります。

スポーツ振興課の篠田さんは「イベントで多くの人に体験してもらうためには、ゆるスポーツに参加した人が開始から終了まで最長何分でゲームを終える時間設定が必要か、ルールを細かくしすぎると参加者が楽しめないのではないかなどの課題は実際にやってみないと分からない、作ってみないと分からないため試行の時間が必要でした。こういった実作業になってからは、ゆるスポーツのプロであるツアーセンターのサポートが心強い存在でした」と語ります。 学校行事もあり、スケジュールを調整しながら準備を進め、いよいよイベント当日を迎えます。会場では、児童たちのブースに多くの人が並び、ゆるスポーツを楽しむ姿が見られました。

ここまでのプロセスをまとめると、

[ 1学期]
・ゆるスポーツについて深く知る
・実際にゆるスポーツを体験する

[ 2学期]
・11月に予定されているイベントにおけるブース出展が決定
・金沢らしさをテーマとしたゆるスポーツの考案、ルールや道具作り
・イベント開催(土曜のため児童は自由参加)

[3学期]
・コラボレーターより大会当日の来場者の反応を聞き、活動内容の振り返りと ブラッシュアップ

になります。

担任教諭たちからは「社会の課題について、受け身ではなく、自ら発見し自分のこととして捉える力、粘り強く解決に向けて努力する力が身に付いたと思っています。また目的を達成するためには自分一人の力ではなく、多くの人の協力が必要だということも学べたのでは。同時に社会にはたくさんの課題があるけれど、あきらめることなく課題を解決しようと努力している人たちがいることを知る機会でもありました。先日、新年度の総合学習のテーマを現6年生に伝えましたが、児童たちの意識があきらかに前年と異なっていることを感じました」、「自分が高齢者だったらどうか、車いすだったらどうだろうかという視点で試すことを基本に試行錯誤して新しいゆるスポーツをつくりました。子どもたちにとっては友達や先生との接点だけでなく、外部の大人から意見を聞く機会は良い刺激になったようです。1年間子どもたちを見ていて、考えたこと、思ったことを発信してみようという姿勢に加え、自分と考えや立場の異なる他者の意見を真摯に聞き、受け止めて整理していく力がついたと思います。そういう力はこれからの人生において必ず必要になります。多くの人に助けていただき、私自身の視野も広がりました。次年度の総合学習をわくわくした気持ちで楽しみにしています」など、一連の流れを振り返っての感想が語られました。

最後にスポーツ振興課の篠田さんからは、「まず、ゆるスポーツに本気で取り組んでくれた学校と子どもたちに感謝しています。単年度のかかわりで終わるのではなく、過去の活動で、ある程度子どもたちに何を伝え、学んでもらいたいかという意識を学校側と共有できていたことも成果につながりました。今回子どもたちがつくってくれたゆるスポーツは、ゆるスポーツのプロでもあるセンターの担当者も感心したレベルでした。実際にやってみないと改善点も見つからないので、何度も繰り返し試していただいたことは一目瞭然です。今回の活動は行政にとっても子どもたちの声を聞くよい機会になりましたし、私たちにとっても非常に勉強となったというのが率直な感想です」と言います。
大会後、道具類一式はツアーセンターで保管しており、子どもたちの想いを受け止める形で、今後もさまざまなイベントで活用していく予定です。

ミシンで縫い、中に新聞紙を詰めてつくった五郎島金時の玉。200個以上が完成しました
イベント当日の様子。仮面を付けて目の不自由な方の立場になり、ルビーロマンに見立てたボールを収穫していきます
「かなざわがしHOKKE-」は車いすで体験できるスポーツ。和菓子を口に入れればゴールです

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