HESOコミュニティモデル
プロジェクトのはじまり
大きな題材から取り組むべき テーマを絞り込む
令和4年度における4年生の総合的な学習の時間は加賀野菜を題材に始まりました。加賀野菜とは「昭和20年以前から栽培され、現在も主として金沢で栽培されている野菜」のことで、現在、金沢市農産物ブランド協会(以下、ブランド協会)が15品目を認定しています。1学期は課題を見出すために、加賀野菜の情報収集からスタートしましたが、インターネットで得られる情報量には限りがあり、子どもたちから教諭のもとに「もっと多くのことを知りたい」というリクエストがありました。その声に応え、コラボレーション推進室の担当者がブランド協会にコンタクトを取り、附属学校園が実施するプロジェクトの趣旨や目的について説明したところ協働で活動することで合意。さっそくブランド協会事務局長の酒井さんが学校を訪れ、詳しい資料の配布とレクチャーを行ってくださいました。
1学期の終わり、4年生3クラスの児童は課題を見出すため共同で加賀野菜についてのアンケートを実施します。アンケートはQRコードを利用して作成し、品種別の知名度や購入頻度、調理方法を知っているかどうかなど、子どもたちが考えた質問に答えてもらう形式で行いました。家族、まわりの大人、懇談のために来校した保護者などを対象に積極的に参加を呼びかけ、夏休み明けには200を超える回答が集まり、すべての項目で最も点数が低かったのが「二塚(ふたつか)からしな」だという結果になりました。
二塚からしなは、ワサビに似た辛味と苦味、ツンとした香りが特徴の加賀野菜で、かつては冬の保存食として重宝されましたが近年は需要が伸び悩んでいます。学校を訪れたブランド協会の酒井さんにアンケートの結果を報告したところ、その結果はブランド協会にとっても大変興味深いものだったようです。同日、酒井さんから「からしなの生産者も認知度の低さに悩んでいる」という現状が子どもたちに伝えられました。
ここまでの活動を通じて、児童のなかには「なぜ二塚からしなを買う人や食べる人が少ないのか」「どうすれば県内の多くの人に二塚からしなのことをもっと知ってもらえるだろう」といった探求心が生まれ、4年3組の総合的な学習の時間のテーマは加賀野菜という大きな題材から二塚からしなの認知向上へと移行し、1学期を終えました。
子どもたちの活動と想い
課題に向き合う人たちの声を 自分ごととして捉える
2学期になってからは、福田教諭が3組の総合的な学習の時間の担当になり、クラス担任と協力して授業を進めていきました。10月には実際に二塚からしなを学校の敷地内で栽培し、それを使って料理してみようという計画に基づき、ブランド協会と金沢市農林水産局農業センターの方々に教わりながら丁寧に種まきをしました。児童が栽培した二塚からし菜はやや小ぶりでしたが、そのことが子どもたちに二塚からしな栽培の難しさを伝えました。また栽培途中に間引いたからしなを口にしたことで、からしな本来の風味も確認できました。レシピ考案について、必要な二塚からしなの調達に尽力してくれたのはやはりブランド協会で、提供いただいた二塚からしなを持ち帰り、家庭でのレシピ作りに取り組めました。
課題と解決への道
子ども自身が課題を見つけ、 解決方法を切り拓いていく
児童が家庭で食したレシピをクラスで発表したところ、二塚からしなの特徴である苦味や辛味を感じさせないメニューと、苦味・辛味を生かしたものの2つに大別され、どちらが認知度の向上に効果的かという議論が起こりました。ここでポイントとなったはある児童の「天ぷらにしたら苦味や辛味が消えておいしかった。でもそれならわざわざ二塚からしなを使う必要があるのか?他の野菜で代用してもいいのでは」という発言でした。そこからさらに議論を重ねた結果、出されたのが「実際に二塚からしなを作っている生産者さんはどう思っているのか聞いてみたい」という意見でした。
そこで再びブランド協会に経緯を相談し、紹介されたのが市内で二塚からしなを生産する「やのファーム」の矢野さんです。矢野さんは児童たちの気づきに感銘を受け、悩みながらも「まずは普及を優先して辛味・苦味を消すメニューからPRし、その後でからしな本来の味わいを生かしたメニューがいいと思う」とアドバイスしてくれました。
そのやりとりの際に矢野さんが児童に何気なく紹介したのが「からしなパウダー」です。からしなをパウダー状にすることで、収穫時期以外にも味わうことができます。料理に使いやすいメリットもあり、二塚からしなの普及を目的に矢野さんが作りました。その存在を知った児童からは「食べてみたい」という声が上がりました。加賀野菜の特性上通年食べることは難しく、収穫期以外の普及活動はどうすればいいかといった問題を抱えていた児童にとってパウダーは救世主ともなりえる可能性があり、児童たちは矢野さんから分けてもらったパウダーを持ち帰り、さっそくレシピ作りに取り組みました。
そこで出てきた多くのレシピはジャンル別に振り分けられ、ブランド協会やJAの職員の方、矢野さん、野菜ソムリエの方などを招き、発表しました。「少しずつ材料の分量を調節した」「アイスクリームをつくってみた」「家の人もおいしいと言ってくれた」など、自分のレシピに対する積極的な発言が続き、コラボレーターも真剣に耳を傾けました。
発表会の最後には生産者の矢野さんから「これだけの数のレシピをつくることは私たちだけでは不可能です。私たちは畑で一生懸命二塚からしなを育てています。二塚からしなをもっと多くの人に知ってもらいたいと思っていましたがどうすればよいのかはわかりませんでした。二塚からしなのことを一生懸命考えてくれた子どもたちの姿を見て夢が広がり、もっとがんばらなくてはいけないと思いました」という言葉が伝えられました。
プロジェクトを通して得られた成果
教師は伴走者として 子どもたちの心に寄り添う
総合学習も終盤を迎えた3月、最初はうまくいかなかった児童による二塚からしなの栽培でしたが、丹精込めて世話をした結果、小ぶりながらも瑞々しいからしなが収穫できました。 「収穫したからしなをどうする?」という問いかけに対し、二塚からしなをPRするために販売したいという意見があがり、3月17日にJAグループの直売場(JA金沢市 ほがらか村野田店)に臨時ブースの出店が決まりました。
そのころになると児童は、自分が今何をすべきかを考え、行動を起こすことができるようになっており、ポップやポスター作りなどに積極的に取り組む姿が見られました。迎えた販売当日、前日に収穫したからしなは矢野さんのご好意でラッピングされ、児童たちが考案したからしなレシピを添えて販売。用意した個数を時間内に完売しました。販売終了後には、店舗前でパネルを用いたプロジェクトの発表が行われ、多くの買い物客が足を止めて聞き入っていました。
「みんなはどう思う?」「じゃあどうしたい?」 — 総合学習のなかで福田教諭はよく子どもたちにこう問いかけました。一連の活動については「授業の前後にコラボレーターと報告を兼ねた打ち合わせはしますが、基本的には教師は伴走者に徹し、コラボレーターへのアプローチも含めて子どもたちに経験してもらいます。子どもたちが主役となって取り組むことで、活動に対する意気込みが違ってきます」と振り返ります。
また、今回登場したからしなパウダーは、その後金沢市内の人気パン店の新商品に使われるなど、プロジェクトをきっかけにあらたなつながりも生まれています。
二塚からしな×ひらみぱんの新たなストーリーがはじまります! - 金沢大学附属学校園 プロジェクト HESO」