HESOコミュニティモデル
プロジェクトのはじまり
将来のキャリア教育も見据えた 課題に取り組む
令和4年度、将来のキャリア教育も見据え、6年生は総合的な学習の時間のキーワードとして「新しい価値の創造」を掲げました。初回のオリエンテーションで担任教諭が児童に「将来どのような職業に就き、どんなことをしたいですか。その職業の人はどういう価値を生み出していると思いますか」と問いかけたところ、答えた生徒は少数でした。そこで「これから始まる活動を通じてその答えを考えていこう」という旨を伝え、プロジェクトが始まりました。
最初の活動は、何人かの大人たちに「あなたはどのような価値を生み出していますか」という質問を投げかけてみることでした。その後、事前に職業から予想した答えと実際の答えが一致したかどうかを検証し、ロールモデルとなるべき大人がどのような価値を生み出しているのかをリサーチしました。
その活動でインタビュー受けた人物の一人が、金沢大学の学生でごみ拾いを行う団体を立ち上げた岡さんでした。インタビュー前は、大部分の児童が岡さんの活動の目的が環境問題にあると予想しました。しかし、本人から返ってきた答えは「コミュニケーションのため」という意外なものでした。さらに詳しく質問すると、「高校生の時に通学路でごみを拾うようになったら、いろんな人から感謝の声をかけられ、人の輪が広がりました。僕はそのつながりをゴミニュケーションと呼んでいます」という答えが返ってきました。さらに、岡さんがプラスチックごみからインテリア雑貨などを作っていることも聞きました。
岡さんから直接活動内容を聞いたことをきっかけに、子どもたちは「自分たちも価値のないものを価値あるものに変えてみたい」という気持ちを抱くようになりました。
子どもたちの活動と想い
金色のごみから生まれた黄金の茶室を 金沢21世紀美術館に展示
岡さんを含む大人へのインタビューが終わるころ、東京に本社を置く株式会社ネイキッド(以下、ネイキッド)からコラボレーション推進室経由で「一緒に金色の紙ごみやプラスチックのごみ(プラごみ)を再利用して黄金の茶室を作り、金沢21世紀美術館の企画展で展示しませんか」という申込みがありました。
推進室の担当者と担任教諭が話し合った結果、企画内容が本学のプロジェクトのテーマと一致する部分も多く、参加を前向きに検討することになりました。その後、担任が児童に参加の意思を尋ねたところ、大量の金色のごみを集めなくてはいけないことなどを理由に参加を躊躇する声もあり、すぐに結論は出ませんでした。引き続きクラス内で話し合いを重ねた結果、「自分のクラスだけでなく6年生全員で力を合わせればできそう」「やらないと後で後悔しそう」などの意見が出たことで参加を決断しました。
6月の後半には東京のネイキッド本社と児童がオンラインで打ち合わせを行い、茶室制作に必要なごみの数を聞いたり、役割分担について話し合いました。この時点で予想以上に大量の金色のごみが必要なことが判明し、児童は他の2クラスにも協力を仰ぎました。ところが3クラス合同で集めても必要な枚数の確保には至りません。そこで校内放送で全校児童に収集を呼びかけたり、保護者向けのお便り・ポスターを制作するなどの行動を起こし、あきらめることなく材料の収集に励みました。
集めた金色のごみが規定の枚数に達した時点で、来県したネイキッドの社員と一緒に校内でパネルへの貼りつけを行い、ネイキッドが金沢21世紀美術館内に運びこみ、組み立てて黄金の茶室は完成。8月6日から9月6日までネイキッドによる企画展『NAKED meets 千利休』のなかで公開され、多くの注目を集めました。また21世紀美術館で展示後は、金沢駅で展示され、駅を利用する人が足をとめて見入っていました。
課題と解決への道
結果だけでなく、プロセスを見せることの 大切さに気付く
成功のうちに幕をとじた企画展でしたが、子どもたちのなかには達成感と同時に次のような感情が生まれました。
・「すごい」とか「きれい」という言葉をたくさん聞いたけど、ごみから新しい価値を生み出したことはあまり知ってもらえなかった。
・完成品を見てもらうだけでなく、それまでの過程も発表すべきだった。
プロセスを充分に紹介できなかったことが反省点になり、6年1組の2学期以降の活動は「新たな価値を生み出すプロセスを発信する」ことに重点を置いた取り組みへとシフトしていきます。
この時期、次の学習題材を模索していたタイミングでコラボレーション推進室が引き合わせたのが、これまで本校のいくつかのプロジェクトにコラボレーターとしてかかわっていただいた株式会社こはく(以下、こはく)の代表山田さんでした。こはくは金沢市内で古民家再生や着地型の体験を提供しており、担任教諭との話し合いのなかで、こはくが所有する古い町家を活用してはどうかという話が持ち上がりました。
さらに具体的な内容を詰めた結果、長年空き家だった町家の内部に残されたものを再利用することで新たな価値を見出し、それらを町家内に展示する「町家美術館」を開催する案が出されました。美術館開催が実施可能かどうかを判断するため、子どもたちと担任教諭が町家を見学し、プロジェクトは再び走り始めました。
プロジェクトを通して得られた成果
プロセスを外部に発信できる 活動内容へとシフト
こはくの山田さんのつながりで別のコラボレーターも参加し、活動はさらに広がりを見せます。それが、「おくりいえプロジェクト」に取り組む「あとりいえ。」の代表やまだのりこさんでした。一級建築士でもあるやまださんは、年々金沢の町家が姿を消していることに心を痛め、数年前から取り壊し前に家をきれいにして見送る「おくりいえプロジェクト」を主催してきました。当初は見送りの意味がある「送る」ことから始まりましたが、近年は掃除して次の居住者へと町家を「贈る」ケースも増えています。
おくりいえの存在を知った児童から「やってみたい」という声が上がったこともあり、1組の児童全員で町家美術館の舞台となる町家のおくりいえを経験しました。やまださんは児童との出会いを「こはくの山田さんに呼ばれてやって来ました(笑)。子どもたちは純真でなにごとにもいつでも一生懸命。大人なら無意識のうちに設定してしまう限界値をいとも簡単に超えてきます。子どもたちと一緒に行ったおくりいえでは子どもたちの無限のパワーも感じ本当に楽しかった。子どもたちの行動を間近で見たり、活動に対する考え方を聞いたことで、日本の未来は明るいと実感しました!」と当日の活動を振り返ります。
おくりいえで見つけた廃材を利用した展示作品は楽器と木の絵本。木の本の製作には「夜の図書館もーり。」の毛利さんが、スタンプラリーに使うキャラクターの制作にはOKUMURA DESIGNの代表デザイナー奥村さんがコラボレーターや推進室の紹介で協力し、それ以外のCM作成やSNS発信はすべて児童自身が担当しました。
黄金の茶室制作時の「プロセスを見せることができなかった」という反省点は、町家の内部にこれまでの活動をパネルで紹介するスペースを設け、活動内容を発表するギャラリートークを行うことで解消しました。
令和5年の2月25日と26日の2日間、「町家の未来を救う」をテーマとした町家美術館が開催されました。担任教諭は町家美術館について「町家美術館に至るまでに、自分たちがアイデアを出して動くことでまわりも変わることを経験できたと思います。町家美術館にはこれまでの反省点を反映できたと思っていましたが、子どもたちはさらにブラッシュアップできると思っているようです。今はまだ小さな取り組みでも、中学校から高校へと継続していくことでいつかは世の中を変える力につながる可能性があると思っています」と児童とともに取り組んだプロジェクトを振り返りました。