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HESOの声(中学校「創造デザイン科」から高校「探究ゼミ」への継続 篇)

金大附属高校1年:山下りょうさん、廣保冴さん
金大附属中学・研究主任:服部浩司教諭
本学附属学校研究推進部会コラボレーション推進室室長:福田晃

本学園ではSTEAM教育に取り組むなかで「創造性の育成」を重視しています。中学校では、研究開発学校として文部科学省の指定を受け、令和4年度より、「創造デザイン科」を新設しました。中学時代、「創造デザイン科」で「野町エリアの雪問題」に取り組んでいた山下りょうさん、廣保冴さん(現・金大附属高1年)。高校入学後も、「探究ゼミ」の中で継続して同じテーマに取り組んでいる二人に、中学でやっていたこと、高校でやっていることなどについて、中学校研究主任の服部浩司教諭を交え、語ってもらいました。

フィールドワークで知った地域の課題

服部:

まず、中学時代の「創造デザイン科」(以下、創デ)でやっていたことから振り返りたいと思います。山下さんと廣保さんの二人は「野町の雪問題」をテーマに今も継続して取り組んでいるけれど、そもそも雪問題にたどりついた経緯は?

山下 

中学のときは、地域の課題解決をテーマに、(犀川、平和町、寺町、野町の4つのエリア別の)グループに分かれた中で、私は野町を選択しました。フィールドワークで、地域住民の方にインタビューしよう、ということになったんです。困っていることは何か聞いてみたら、道の狭さや、雪に困っている、という話が出ました。フィールドワークには3回くらい行きましたが、特に平日昼間はあまり町に人がいなくて、野町駅近辺も高齢者の方が多い印象でした。2回目以降、テーマを雪に絞ってインタビューしたら、雪を捨てる場所がない、用水路に捨てるしかなくて困っている、と。だんだん深掘りしていった感じです。

廣保: 

当時は何となく野町エリアを選んだのですが、フィールドワークに行って、野町には用水路がたくさんあると知りました。道が狭くて雪かきをしても置く場所がなく、用水路に捨てていると聞いて、どうしたら捨てなくなるかなと。そこからテーマを決めました。用水路に雪を捨てると、春になって一気に雪解け水が流れて、用水路の下流で詰まったり、冠水してしまう問題が起きるんです。金沢市役所に話を聞きに行ったら、田んぼや畑で毎年のように冠水被害があると教えてもらいました。

山下

毎年、冬になると野町の駅前に、用水路に雪を捨てないでと呼び掛ける看板が出るそうです。用水路に捨てた雪がガチガチに凍ったまま塊で残ったり、冬でも冠水して、その場所が凍ったりして危険なんです。でも雪を捨てる場所が本当になくて……。

服部:

中学のときは、どこまで取り組めた?

山下

そもそもの課題は、雪問題をどうにかしたい、と。ただ課題が大きくて、途中で迷走してしまった。野町の住民に向けたポスターを作ろうという話で止まってしまった感じです。

廣保:

解決策を考えたときに、ポスターを作るとか呼びかけるとか、そのくらいしかできることがなかった。でもそれだけだと広がらないし、ポスターを作って掲示したとしても、解決策にならないんじゃないかなと……。

山下

実際に、ポスターは作ったんです。「用水に雪を捨てないで」と。ただ、それで何か変わるようにも思えなかった。雪を捨てる場所を作るとか、融雪装置のようなものを取り付けられないかとか、具体的な案も出ていたんです。市役所に行ったときに聞いたら、出ていた案は条例に引っ掛かるとか、お金がかかるからできないと言われてしまった。自分たち、中学生の力で何かするとなったら、呼びかけたり、ポスターを作るくらいしかやれることがなかった。
それで卒業のときには、高校に入ったら、他県の事例なども探しながら、もっと具体的で効果的な方法を探そう、と思いました。自分たちが考えたことを実現させたい。今は、この先、どう発展させていこうかなと考えている最中です。

困っている人がいるのに、中途半端で終わりたくない

服部:

中学を卒業するときに、高校でもこのテーマでやろうと思ったとのことだけど、そのモチベーションはどこから? 

山下

中学のときにフィールドワークで住民の方の話を聞いたり、市役所で話を聞いて、初めて知ることもたくさんありました。創デのほかのエリアのグループも、地域でゴミ拾いをしたり、実際に活動していましたよね。中学生でも、行動を起こせば、社会の中で少しは影響を与えられるんじゃないか。自分たちが考えていることが実現できるんじゃないかと思いました。当時も、自分としては真剣に取り組んでいました。何かアクションを起こせば、何か変わるんじゃないかっていう、変化へのドキドキ、期待は強かったです。その気持ちがあったから、今も続けられているのかな。

廣保:

中学3年生のときに、このテーマに取り組み始めました。みんなで調べたり、フィールドワークに行ったり、市役所でも話を聞いて、用水路に雪を捨てるのはダメだということもわかった。ただ、途中で終わってしまったのでモヤモヤが残ったんです。中途半端でやめたくない、やるなら最後までやりたい、と思って高校でも続けようと思いました。困っている人がいるのに、解決しないままなのは違うかなと。


服部:

高校入学後は「探究ゼミ」で取り組んでいるけど、課題のテーマはどのように考えていった?

山下

高校では「社会科学」のゼミに入りました。1学期から探究基礎の授業があって、2学期までに課題を考えながら決めていきました。ゼミの先生からは、最終的に論文にまとめてほしいと言われています。野町の雪問題について継続して取り組むことにしたものの、課題を決めるのに時間がかかりました。中学のときのように、テーマが広すぎるという問題にぶつかって……。でも、高校はあと2年間あるので、テーマを絞るのではなく、増やすことにしたんです。中学でやっていたテーマを細分化して、視点を変えて解決していこうと。

廣保:

1学期は、本を読んだり資料を調べたりする中で、それぞれ自分が気になったことから研究テーマを決める感じでした。テーマは、抽象的なことではなく、解決策や何らかのゴールを達成できるような具体的な内容を考えよう、と。なので、中学でやっていたことをもとに、テーマを「野町の雪問題」ではなく「野町の除雪」にして、市や住民がすべきこと、という視点に絞りました。文献調査もしました。北海道で、高齢者が多く雪の時期に動けない集落の話があって、雪かきボランティアが入って対応した、と。野町とは、高齢化、狭い地域という共通項があったけど、そこは融雪溝があったから雪の行き場はあった。野町の場合は、行き場がないから、ボランティアを頼めばいいという話でもない。持続的ではないので、何かずっとやっていける方法はないのか、考えようということになりました。

「創造デザイン科」の経験が、「探究ゼミ」に活きている

服部:

研究主任としては、創デは教育の一環として大事な教科だと思って作っています。君たちが課題を見つけるのに時間を費やしたと思うけど、実はそこは大事にしている部分。生徒たちが、自分たちで課題を見つけて、解決したいという意識を持ってほしいなと思っている。君たちがやっているのは、まさに我々教員が目指したい方向性なので、応援したいし、君たちみたいな生徒がもっと増えてほしいなと。
 ちなみに、中学時代、創デに真剣に取り組めたのは、実際に地元の人に話を聞いたのが大きかったのかな。インタビューをしようと思ったのはどうして?

山下

どうやってテーマを決めようかと思ったときに、その地域に住んでいる人にインタビューして困っていることを訊いてみるのが早いだろうと思いました。フィールドワークで実際に話を聞けたのは大きかったです。

服部:

研究ということでいうと、文献調査も大事だけれど、実際に外で動いたり、データをとったりプロジェクトをやることは大きな意味があるし、自分たちで考えて動いているのは素晴らしいなと。
ところで、創デでやっていたことで、具体的なテーマ、経験、知識などで今の研究に活きていることは?

山下

全面的に活きています。創デがなければ、そもそもここまでやっていない。今も、野町のことで知りたいことが出てきたときに、中学の創デの記録を見たらちゃんと書いてあったり、データを比較するのに役立っています。

廣保:

高校でも続けてやれているのは、中学の創デでのフィールドワークの経験がもとになっているから。自分たちがやりたいことがあって、自分たちがどの段階にいるのか、この先、目標を達成できるかわからない、という中で、段階を踏んで一つずつクリアしていくことや、問題点をはっきりさせる、というのは創デでやっていたと同じ。そこも活かせています。

福田:

大人も同じことが言えるのだけど、文献で調べるだけではなく、手や足、身体を動かしてわかること、次の行動が見えることもある。ぜひ続けて頑張ってほしい。
ところで二人がこの先、どうしていきたいのか聞いてみたいのだけれど、この探究ゼミの時間を通して、目指したいビジョンは?

山下

目指したいのは、野町の方が、罪悪感なく雪かきができるように、かつ雪で困らない状態になること。今のように、用水路に雪が捨てられることが黙認されている状態じゃなく、これでOKと言える状況になること。さらにそれが継続できる状態になってほしいです。

廣保:

今、野町の住民の方たちは、(注意喚起の)看板があるから、捨てちゃだめなことはわかっている。けれど、捨てる場所がない。市役所に話を訊いたときに、「程度問題」だと言われたんです。100%ダメなわけではない、と。ということは、良い程度であればいいということ。住民の人たちが罪悪感なく、悩まずに雪に対処できるような状態になるといいなと思います。

服部:

問題というのは、理想的な姿マイナス、現状。つまり、ギャップの部分。ギャップが縮まれば、理想的な姿に近づくということ。創デでやりたいことも同じことが言えると思う。

福田:

二人が、やっていること、思っていることをこうして言語化できるということは、創デでやっていたことが活きているのかなと、話を聞いていて思いました。
さらに、この先が大事になるのだけれど、理想の状態に近づけるためには、実際に手や足を動かしていくことが必要になる。今後、探究ゼミの時間を使いながら、動いていくと思うけど、どんな支援が必要になりそう?

山下

いくつか具体的に考えていることはあります。この先、自走するとなった場合、例えば、何かを設置するときにはコストがかかったり、電力をどこから引っ張ってくればいいのか、という問題が出てくる。そういうことは二人の力ではどうにもできない。自走しようとなったら、そこは最初にぶつかる壁だと思います。

廣保:

考えていることがいくつかあって、やってみないとどの方法がいいのかわからないけど、実際に野町の用水路にアクションするとしたら、どう実現させられるのか。そこは一番困っています。

福田:

今の話でいうと、いきなり野町でやる必要はないと思う。雪を解かす、雪のない状態にするのは、校内の一区画でもやれること。そこから拡張していくことが大事だと思う。まずはいろいろなプロトタイプをつくってみるところから。実際に形にする、動く、というときに、困ったら声をあげてほしい。大人も同じで、一人の力は限られているし、いろんな人の助けを借りなければ、実現できないことばかり。ぜひ、小さいプロトタイプから作ってみたらいいと思う。その先に、何か人や物が必要なら言ってください。理想とする世界を、ぜひ実現させて欲しい。

服部:

実際にやっていく中で、どんな支援が必要になるのか。例えば、こういう実験をしてみたいからこういう装置が欲しい、ということがあれば、手伝いができると思う。これからもぜひ頑張って欲しい。応援しています。

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