金大附属高校2年:吉岡真宏さん(文中:ショーン)
同校1年:松尾奈夏さん(同:ナナ)・川原紗和さん(同:サワ)
同校・塚田章裕副校長
本学附属学校研究推進部会コラボレーション推進室室長:福田晃
起業を目指す若者が、実践を通して起業家マインドやスキルを学ぶ起業家育成プログラム「VIVITA VISTA FOR YOUTH」に、金大附属高校2年の吉岡真宏さん、同1年の松尾奈夏さん、川原紗和さんが参加しています。プロのメンタリング、参加者同士の議論を重ねて構想を練り、12月のエストニア研修では現地の学生とのセッションや起業家へのプレゼンを経験しました。自分たちのアイデアの社会実装を目指す吉岡さんたちが、プログラムやエストニア研修の学びを同高の副校長に報告しました。
「VIVITA VISTA FOR YOUTH」参加メンバーとテーマ
■吉岡真宏(高校生2年生)ショーン
テーマ「面白いアイデアを持っているけど、それを実行に移すことができていない高校生がたくさんいること」
■松尾奈夏さん・川原紗和さん(高校1年生)ナナ・サワ
テーマ:「各家庭で合意に基づいた家事分担を実現する」
福田: 本学附属学校研究推進部会コラボレーション推進室が協賛として参画している「VIVITA VISTA FOR YOUTH」。12月から3ヶ月間のプログラムには大学生2名のほか、金大附属高校からショーンとナナ・サワが参加しています。今日はそれぞれの取り組みやエストニア研修での経験、さらにプログラムの良さやどのような学びがあったのか、報告してもらいたいと思います。まずそれぞれのアイデアからお願いします。
ナナ:
私たちのテーマは、「各家庭で合意に基づいた家事分担を実現する」。問題意識としては、家庭内での家事の不平等――日本の家庭では母親ばかりが家事をしている、ということに課題を感じて、効率的に、かつ平和的に分担できないか、ブロックを使ったプロダクトを考えました。小さな目標は、まずプロダクトを実現させたい。将来的には、アプリと連携できたり、分析できたりするものになればいいなと。これらをどう実現させられるか、エストニアでもアドバイスをもらってきました。
塚田:
目的は、家事負担を平等にしたいということかな。日本ではお母さんに家事が偏りがちなのを解消したいと。
ナナ:
そうです。家事って個人の好き嫌いもあるし、負担感がそれぞれ違うと思うんです。家事が分担できて、家族が満足できるようになればいいなと。考えているのはブロックを使ったプロダクトなので、まずは商品の販売かなと。流通コストを考えたらアプリの方がいいのかな。そこは検討している段階です。
ショーン:
僕の問題意識は、面白いアイデアを持っているけど、それを実行に移すことができていない高校生がたくさんいること。例えば、附属生だったらそれぞれ探求の活動をしていたり、大学生もいろいろな活動をしていたりして、社会を良くするアイデアを持っている。でもそれを実現するところまでなかなかいかない。その理由は、プロとか企業の人からアドバイスをもらう機会がなかったり、高め合える仲間と関わる機会が少なかったりするからじゃないかなと。アイデアの実現につながる協力者と出会える、コワーキングスペースの会員制サウナを作りたいと思っています。
塚田:
サウナに着目したのはどうして?
ショーン:
今、サウナが人気だし、僕自身、サウナが好きなんです。もともと抱いていた課題感に、自分の好きなものを掛け合わせました。サウナの中だと、リラックスできるので、大人の前でも緊張しないで話せるかなと。サウナを出たあとのリラックスできるような場所づくりも大事だなと思っています。
塚田:
サウナを人が集まる場、コミュニケーションの場にしていきたい、ということかな。
ショーン:
はい。フィンランド式のサウナには、出たあとにリラックスできるスペースと、ソファやコワーキングスペースみたいな場所があるんです。日本のサウナは高温で、ひたすら我慢、みたいなイメージがありますけど、フィンランドは70~80度でまず温度が違う。生活の一部にサウナがあって、大事なこともサウナで話す文化がある。日本では男女別だけど、フィンランドは水着を着て男女で入るサウナバーみたいなものもあります。日本だと水着でも抵抗ある人はいるかもしれないので、日本に合ったものが作れないかなと思っています。
「小さな行動が自信やモチベーションにつながる」
福田:
プログラムがスタートしてから、TENJO KANAZAWAの三宅さんや三谷産業の三谷さんなど、いろいろな方が関わってくださり、アドバイスをいただきながら、アイデアやプレゼン内容をブラッシュアップしていった。そうして練り上げたものを持って、エストニア研修へ。エストニアでは、いろいろな起業家の人たちを前にプレゼンして、フィードバックをもらうというのを5ラウンド行った。現地では、占領博物館やフィンランドのスタートアップ・サウナにも行きました。出会いもたくさんあり、貴重な経験ができたと思う。
ここからは、それぞれ、印象に残るエストニアでの経験と、そこからどんな学びがあったかについて聞かせてください。
ショーン:
一つは、向こうのサウナを体験したことが大きいです。日本のサウナってどんな感じだろうと、あらためて福田さんと行ってみたんですけど、熱すぎて話せなかった(苦笑)。エストニアではフィンランド式サウナを体験して、現地の方ともサウナの中でおしゃべりできました。研修の後半、一緒にプログラムに参加したメンバーとサウナパークに行って、そこでけっこう深い話ができた。フィンランドのアールト大学内の施設「スタートアップ・サウナ」にも行きました。若者のアクションを応援する、というコンセプト、しかもサウナもあって自分が考えていることと似ているなと。テーマ設定についてのフィードバック、マネタイズの部分でのアドバイスをいただいたことも大きかったです。
ナナ:
私が印象に残っているのは、自分たちのアイデアに対し、デザインのプロの方から「どんなデザインなら使ってもらえると思う?」と言われたこと。本当に実現しそうな人は、マネタイズのことや、どうしたら使ってもらえるか、というところまで考えている。自分たちのアイデアは、アイデア止まりだなと痛感させられました。
もう一つは、さっきショーンも話していましたけど、サウナパークでみんなで話したんです。私、エストニアに行くまでは、ショーンのアイデアについて正直、ピンと来ていなかったんです。サウナで何を話すの? と……。だけど、サウナパークで、みんなで今後のことを含めて熱いトークになって。ショーンのアイデア、いけるかも! と実感しました。日本にいると、「仮定」で進むことが多い気がするんです。課題発見も「みんなはこう思っているのでは?」というように、仮定で進むから、自分の考えに自信が持てないし、やる気が出ない。よく、行動が大事、と言われるけど、商品化するとか大きい行動ではなく、まずやってみて確かめる、という小さな行動が大事なのかなと。それが、自信やモチベーションにつながっていくのかなと。そういう学びがありました。
サワ:
まずプログラムに関する学びは、多様なバックグラウンドのメンターの方にお会いできたこと。自分にはない視点をどんどん言ってくれるので、視野が広がって、新しい世界が見えてきた。もう一つは、エストニアの占領博物館に行ったんです。エストニアはドイツやソ連に占領されてきた歴史があって、国の存亡が危ういときもあった。91年にソ連から独立したけれど、またいつ占領されるかもしれない。自分たちで守ろうという意識があるから、スタートアップが多く生まれるし、国も発展するんだなと。その驚きを肌で感じたのとともに、その意識も年月が過ぎると薄れてしまうのかなと……。日本の戦後と似ているのかなと感じて、人間って学ばないのかな、とちょっと空しくもなりました。
ナナ:
独立した直後は投票率も高く国民全体がやる気があって発展していったけど、最近は投票率が下がっている、という話が出ていたよね。戦後の日本に似ている、と……。
サワ:
政治もだし、エストニアの40~50代の人は占領時代を経験しているけど、若い人は経験していないから、危機感がない、と。歴史から学ばないんだなぁと……。
ナナ:
学ばないよねと私も思った。でもエストニアの政府の人の話を聞いて、日本とは政府のスピード感が違うのはすごく感じました。
サワ:
うん、全然違う。すごくスピード感があるなと。
塚田:
私は社会科の教員で専門は世界史だから、そこはすごく大事なところだなと。外の経験を得たうえで日本の現状を知る、どうすればいいかを学ぶことは大きい。昔のことを学んで何になる、と思っている生徒もいるかもしれないが、現状にいたるまでは当然、歴史がある。それを学んだ上で、今後について考えることは大事。君たちがエストニアで、自然、気候も含め、日本との違いを知り、歴史を含めて理解して、この先どうなるのか、というところまで学んだのは良い経験になったと思うし、とても意味があるなと感じます。
「面白い大人たちとの出会いで視野が広がった」
福田:
このプログラムが持つ良さはどうですか?
サワ:
私は起業にそこまで興味があるわけではないんです。でも今回このプログラムに参加して、参加メンバーを含め、この世には面白い人たちがいるなぁと学んだし、すごいなと思う大人と出会って本当に良い経験になった。例えば、附属高校とか私の周りには、学術面の強さを持っている人は多いんですけど、社会的な強さというのかな……松尾(ナナ)みたいな(行動力がすごいタイプの)人は少ない(笑)。プログラムに参加したメンバーも個性的でしたし、出会った大人たちがすごかった。私たちのプレゼンを聞いて、一発で本質を突いてくる人とか、どんどんアイデアが出てくる人とか……。いわゆる勉強ができる、というのとは別の強さがある人にたくさん出会えて、新しい世界が見えた。それがこのプログラムの一番の良さかなと思います。
ナナ:
私が感じているこのプログラムの良さは、課題発見を重視しているところです。エストニア研修では、占領博物館に行ったり、政府の人の話を聞いたり、いろいろな場所に行きました。異なる文化圏に行って、何が課題なのか、日本とはどう違うのか、自分で疑問を持つところを重視しているんだなと。それは起業家だけではなく、すべてに通じることだなと思いました。大人になったら社会貢献が求められる世の中で、社会の課題をあらかじめ見つけることができるのは、すごいアドバンテージじゃないかなと。それができるという点で、起業家を目指す人だけではなく、いろいろな人にとって価値ある発見ができる場だと思います。
塚田:
起業家を育てるだけではなく、起業家精神を学んでほしいということだよね。その精神が、個人と社会、世界を変えていく、ということを学んだと。
福田:
すべてに通じる、普遍的なところですね。プログラムの狙いは、まさにその部分。例えば、野球をやっている子がみんなプロ野球選手にならなくてもいい。起業家育成プログラムと謳っている以上は、もちろん事業化できる事例が出たらいいけれども、そのプロセスから学んでくれたらいいなと。
ショーン:
とはいいつつも。課題を見つけるだけではなく、実際にアイデアを実現させるまでのプロセスも、このプログラムは学べると感じています。日本でもエストニア研修でもいろいろな人からアイデアやフィードバックをもらえた。それを踏まえて実現に向けて進めているところです。まずはアイデア、課題を見つけることが大事だし、それを実現させられるネットワークの広さがあるのが、このプログラムの強みかなと思います。
福田:
机上で学ぶだけではなく、実際に手足を動かすことの重要性を感じたと。
ショーン:
はい。実際に手足を動かして、いろんな人と話すことで見えることもあるし、自分がやりたいことに関連するプロの方やエキスパートの方と繋がれるのは大きい。アイデアを出すだけでは、何も世界は変わってないし、問題の解決には近づかない。やっぱり自分が動いて、実際に何か進めることが大事だと思う。
ナナ:
このプログラムに参加して、行動力が変わると思いました。帰国して、上野で待ち時間があった。行く前の自分たちなら、カフェとかで時間を潰して終わりだったと思うんですけど、上野公園でスワンボートに乗ろうということになって。みんなでダッシュしたよね(笑)。結局時間がなくてボートには乗れなかったけど、公園の屋台で肉巻きを買って食べた。行動することは、必ずしも思ったとおりにはならないけれど、リスクと兼ね合わせて最適解に変えられる、と。そこに学びの成果が詰まっている気がして。肉巻きを食べながら「変わったな、私」と(笑)。自分に対して、ぐずぐずしてないで動け! と思うようになりました。
福田:
今、行動というキーワードが出たけど、サワさんはどうですか。
サワ:
私は、考えずに行動することは基本的に嫌ですね。
一同:
(笑)
ナナ:
まず動け、という人と、反対側だね(笑)。スワンボートも時間がないからと最後まで反対していたしね(笑)。
サワ:
考えて、詰めて、できると思ったら行動しろ、とは思ってはいます。ただ……今回のエストニアの経験で、まずは行動、というのも悪くはないのかな、と。
一同:
おお!
塚田:
人それぞれだよね。どっちが良い悪いではない。世の中は、考えて行動する人が多い一方で、考える前に行動して成功を収めている人もいるよね。
福田:
興味があるのは、サワさんの変化した部分。それはどうして?
サワ: 何ていうか……日本やエストニアで会った大人や企業家の人たちは、考える前に行動している人が多い印象があって。もちろん考えてはいるんでしょうけど、自分が、これがいい、と思ったらどんどん突き進む、みたいな。これがいい、でもどうしようと迷うよりも、まずやってみよう、コンテストに応募しよう、と。そういう精神があることで、うまくいくこともある。逆に、考えすぎて機を逸してできないことも、起業の世界ではたくさんあるのかなと。そう思ったのが、考える前に行動するのも悪くないかなと思ったきっかけです。
塚田:
今、日本が停滞している、その解決策の一つはそこにあるのかな、と。日本人は慎重に物事を進める国民性がある。何かするときに、リスクを考慮したり段階を踏みすぎたりすることでスピードが遅くなる。同じアジアでも、中国が発展しているのはスピード感が違う部分ではないかな。まず行動することが、日本の発展にもつながるのではないかというのは、よく言われていることだよね。
「本当の主体的な学びを実感できた」
福田:
では最後に、学校との学びの違いや同世代に伝えたいことを。
ショーン:
学校での学びと、このプログラムの学びとの一番大きな違いは、主体性があるかどうかというところ。学校では、授業で課題を与えられて解く、という受け身のことが多いですよね。このプログラムは、まず自分たちが解決したい課題を持っていく。どう解決したいかも、自分がやりたいように考えていく。僕の場合は、やりたいことと好きなサウナを組み合わせて、すごく楽しくやらせてもらっている。周りに優秀なライバルが多いので、やらなきゃ、というプレッシャーもあるけど、楽しい。本当の主体的な学びをこのプログラムで実感できたので、こういう学びもあるんだよ、と同世代に伝えたい。部活や勉強も大事だし、みんな忙しいと思うけど、学校だけでは体験できない学びがこのプログラムにはあります。
サワ:
自分の中で、附属高校の生徒たちは、高速道路を走っているようなイメージがあります。舗装した綺麗な道路で、行先もよく見えている。大学選択では医学部志望が多いけど、医学部に行ったら医者になれて……と明るい未来が見えているのかなと。私は正直、この学校に入ってから、つまんないなと思っちゃうところもあって。多少勉強できて、ちょっと有名な大学に行けたとして、それで何するんだろう? と……。この起業家プログラムで出会った起業家の人たちは、森のけもの道を進んでいるように感じる。行先は全然見えない。ただ、見えないということは、その先には無限の可能性があるんじゃないか。未来の自分がはっきり見えないからこそ、どうにでもなれる。今、自分の可能性をすごく信じている人とか、いわゆる日本で合理的な道、安全をとる、という考え方よりも、ワクワクする道に行きたい、という人は、ぜひ、こういうプログラムに参加したらいいと思う。カッコイイ大人たちの話を聞けば、人生変わるかも、いきたい道が見えちゃうかも、と。私はすごく変わったので、その一人として伝えたいですね。
ナナ:
私はどちらかというと、普段、学校とかにあまり疑問を感じないのですが、そういう立場から。学校というのは、特に高校は受験があって似たような人が集まりがちだと思う。もちろん多様ではありますけど、偏差値が高くてだいたい真面目で……そういう似たような集団の中では価値観も偏ってくる。私はそういう環境が好きでもありますけど。そこからちょっと抜けて、今回のようなプログラムに参加すると、全然違う道を歩んできた大人とか、すごくいろんな人に出会って、視野が広がった。さっき松尾が高速道路を走っている、と表現していましたけど、先が見えていたような自分の進路を考え直すきっかけにもなると思う。起業とか興味ないし学校で学べばいいじゃん、と思っている人も、ぜひ参加してみたら良い学びが得られるかなというのは伝えたいですね。
塚田:
3人が得たものは大きいと思う。エストニアはなかなか行ける場所ではないし、非常に良い体験ができたのではないかな。この先、高速道路を外れてけもの道を進むのか、やっぱり高速道路を進むのか……そこはわからないけれど(笑)。今回の経験をぜひ今後に繋げていってほしい。